研究課題/領域番号 |
18K06104
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岸本 拓磨 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 助教 (70585158)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞膜 / リン脂質非対称性 / 出芽酵母 / ステロール / 脂肪滴 / 脂質輸送 / 小胞体 |
研究実績の概要 |
細胞膜におけるリン脂質非対称性は真核生物全般に保存されていることから重要な生理的意義を持つと予想されるが、その意義は完全に明らかにはなっていない。本研究では出芽酵母解析系により細胞膜リン脂質非対称性に関わる遺伝子変異株crf1 lem3 sfk1が示す致死性について、その原因を探求することでリン脂質非対称性の生理的意義の解明を目指す。 本研究で構築したリン脂質非対称性に異常を示すcrf1 lem3 sfk1- ts高温致死性変異株(以降、三重変異株)を用いて種々の解析を行い以下の結果を得ている。 細胞膜インテグリティの異常:顕微鏡観察から、1)細胞膜に局在するnutrient transporterの多くが細胞膜に局在できない、2)細胞膜で形成されるドメイン(eisosome)タンパク質が異常蓄積する、等の細胞膜異常が明らかとなった。また、細胞膜における物質透過性が劇的に上昇する物性の異常も観察された。これらのことから、致死性を示すほどのリン脂質非対称性が異常になる状況では、細胞膜機能が顕著に異常になる事が明らかになった。 細胞小器官の形態的変化:特徴的な形態的変化として三重変異株では脂肪滴の数が増加していた。この現象については、三重変異株では細胞膜中のエルゴステロール(動物細胞のコレステロールに相当)量が減少する一方で、細胞内のステロールエステル量(脂肪滴の主成分の一つ)が増加するという生化学的解析の結果とも一致している。さらに、三重変異株では、脂質輸送に関わる細胞膜直下の小胞体構造が部分的に失われていた。 以上の結果から、現段階で細胞膜リン脂質非対称性は、細胞膜-小胞体との相互作用を介して細胞膜ステロールレベルの制御に関わる事で細胞膜インテグリティに寄与しうる事が示唆されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は三重変異株の表現型解析から、リン脂質非対称性が異常になることで引き起こされる細胞膜インテグリティの異常に加え、細胞内小器官の構造とその脂質分布に異常が生じる事、そして、それらが致死原因となりうる可能性を示唆する結果を得た。予定していた研究計画の「細胞膜現象の解析」について細胞生物学的解析を概ね終えることができ致死性の探求についても可能性を示す結果を得ることができた。そのため、脂質分布や量的変化に焦点を当てる今後の研究の方向性に大きな変更がなく進むことができるため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
リン脂質膜非対称性の異常が細胞膜機能に大きな影響を及ぼしていることから、細胞膜自体の性質に焦点を当て解析を行う。また、致死原因の詳細な解析のため、遺伝学的スクリーニングを計画している。 細胞膜の物性に関する解析:細胞膜の透過性と脂質充填密度・流動性について三重変異株でどのように変化するかを測定する。 細胞膜を構成する脂質に関する解析:三重変異株で三重変異株において脂質非対称性が崩壊することで、脂質レベルでどのような変化が生じているのかについて解析する。1)分画遠心により細胞膜を単離し、脂質組成を解析する。2)細胞膜の脂質分布がどのように変化しているのかについて脂質特異的プローブを用いた顕微鏡観察により解析する。 細胞膜脂質非対称性制御に関わる遺伝子のスクリーニング:三重変異による致死性の原因として、脂質非対称性の崩壊が引き起こす脂質分布や膜物性の異常、また増殖に必須な細胞膜タンパク質の機能不全等が考えられる。三重変異株の致死性を高発現によって抑圧する遺伝子群の中には、致死性の原因に関与する遺伝子が存在するものと考えられる。酵母ゲノム断片を多コピープラスミドにクローニングしたゲノムライブラリーを三重変異株に形質転換することで、これらの遺伝子を検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、計画当初より物品費が少なかったため、384,538円を次年度に使用する。 次年度は、合成DNA、生化学用試薬類、使い捨てプラスチック器具の購入のための物品費として1,100,000円を、国内外の学会参加のための旅費として284,538円を、塩基配列解析にかかる費用として100,000円を使用する予定である。
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