細胞膜におけるリン脂質非対称性が真核生物全般に保存され、重要な生理的意義を持つと予想される。本研究では出芽酵母解析系により細胞膜リン脂質非対称性に関わる遺伝子変異株crf1 lem3 sfk1が示す非対称性の崩壊と致死性を指標に、その異常の原因を探求することでリン脂質非対称性の生理的意義の解明する事を目的としている。本研究では以下の結果を得た。 1)細胞膜環境の異常。細胞外側層にリン脂質が露出しないため、通常、リン脂質結合性薬剤に対して無反応であるが、三重変異株はこれらの薬剤に対する感受性が顕著に上昇していた。また、脂質プローブ解析でも、三重変異株では細胞膜非対称性に顕著な異常が生じていることが確認された。これに伴って、①細胞膜の膜透過性の上昇、②細胞膜で機能する透過酵素の細胞膜局在の喪失、③細胞膜密度の低下、など細胞膜の機能の喪失が明らかとなった。 2)ステロールの分布の異常。遺伝子過剰発現実験から、脂質輸送に関わるオキシステロール結合タンパク質Kes1が三重変異株の致死性が抑圧し、この抑制がステロール結合能依存的であることが明らかとなった。そこで、三重変異株でのステロールの分布、脂質量の解析を行ったところ、細胞膜からステロール類の顕著な低下が生じ、それと相反して脂肪滴の増加が観察された。また、蛍光ステロール動態追跡実験の結果、細胞膜で保持されないステロールが脂肪滴に輸送されることを明らかにした。また、Sfk1 はフリッパーゼとは異なる様式で、ステロールを細胞膜に保持している可能性を明らかにした。これらの結果は、リン脂質非対称性が、細胞膜のステロールレベルを制御する事で細胞膜インテグリティに寄与しうる事が示唆しており、その機構に異常が起こると、細胞膜のステロール保持能力の低下を惹起し、細胞内ステロールホメオスタシスの喪失につながりうる可能性を見出した。
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