本研究は筋小胞体カルシウムポンプ(SERCA1a)を用い膜タンパク質の機能に対する脂質環境の影響を調べるために、様々な種類、組成の脂質構成を持つナノディスクに組み込んだ標品の反応速度論的解析を行うものである。本年度も引きつづき、近年報告のあったSERCA1aの324番目のアルギニン残基とリン脂質ヘッドグループ中のリン酸基との間に形成、解離を起こすタンパク-脂質間相互作用の、酵素活性上の役割について焦点を当て解析を行った。今回COS-1細胞で発現させたSERCA1aを用いたの解析により、Arg324と-脂質ヘッドグループ間の静電的相互作用はカルシウムポンプが内腔側にカルシウムを放出する際、カルシウムに対する親和性を低下させる過程に大きな役割を持つことが示された。さらにCOS-1ミクrとソーム中での挙動と、SERCA1aを各種リン脂質を埋め込んだナノディスクに再構成した標品との比較から、nativeな膜環境では結晶構造で見られるフォスファチジルコリンではなくフォスファチジルエタノールアミンがリンクしている可能性を強く示唆する結果が得られた。 またSERCA1aの律速過程であるEP転換ステップにも、Arg324-リン脂質間の静電的相互作用が大きな役割を果たしていることが示されたが、COS-1由来のミクロソーム中ではその寄与はArg>Glu>Alaであるのに対して単一種類の脂質を持つナノディスクではこの順番を再現することができなかった。しかしながら、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリンをSRVの脂質組成を参考に混合した脂質組成下ではミクロソームで見られた順序が再現されることを見出し、nativeな膜環境ではこのステップにおいてパートナーとなる脂質の大きな組み換えが起きることが示唆された。
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