研究課題
コラーゲンとグリコサミノグリカン(GAG)は骨の主要な有機成分であるにもかかわらず、その相互作用はこれまでほとんど知られていなかった。しかし酸性条件下でのみGAGがコラーゲン線維に結合して耐酸性コラーゲン線維が形成されることから、コラーゲン分解においてGAGが何らかの役割を担うことが予想されている。該当年度では、前年度までに調製した動物骨組織の小片について、カテプシンKによる分解実験と走査型電子顕微鏡による骨表面の観察実験を行った。まず骨コラーゲン線維と耐酸性コラーゲン線維の比較を行った結果、耐酸性コラーゲン線維では線維が束になっている様子が観察された。この結果は、GAGが結合することでコラーゲン線維が耐酸性化するメカニズムを考察する上で有意義な結果であると言える。さらに、カテプシンKによる分解の様子を観察したところ、耐酸性コラーゲン線維の束構造は分解されずに保持されていた。カテプシンK反応により溶液中に放出されたコラーゲン断片を質量分析により解析した結果、耐酸性コラーゲン線維ではカテプシンKにより溶出されてこない断片が見られた。以上より、コラーゲン線維はカテプシンKによる分解の際に、GAGと結合して耐酸性コラーゲン線維を形成することでカテプシンKの基質特異性に関与することが示唆された。さらに詳細にGAGが関与するコラーゲン線維分解メカニズムを解明するために、質量分析器を用いてカテプシンKにより産生するコラーゲン断片を網羅的にモニターする活性測定系(MRM-HR)を構築した。
3: やや遅れている
走査型電子顕微鏡による耐酸性コラーゲン線維の観察については予定通り実験を実施し、データを得ることができた。しかし、この測定の条件検討のために使用した時間と研究費が嵩んだため、質量分析を用いてコラーゲン分解をモニターする実験に十分なリソースを確保することができなかったことが進捗がやや遅れている主な理由である。また、この課題とは別に共同研究として進めている研究で、骨髄細胞および骨芽細胞のプロテオミクス、メタボロミクス解析を該当年度内に実施しており、その研究により得られる知見は本課題を遂行する上で有用であると判断した。このためその共同研究を先行させたことも本課題の進捗がやや遅れた理由として挙げられる。
次年度では前年度までに実施できなかった、カテプシンKによる耐酸性コラーゲン線維の分解を質量分析器を用いてモニターする実験を実施する。質量分析器(TripleTOF6600, AB Sciex)を用いたMRM-HR測定により、コラーゲン線維の分解産物として見られる全てのペプチドの生成量の時間変化を測定する。 これによりカテプシンKがコラーゲン線維をどのように分解するのかについて知ることができる。さらに、GAGを結合した耐酸性コラーゲン線維との比較をすることで、カテプシンKによるコラーゲン分解に与えるGAGの影響を明らかにする。より詳細に反応メカニズムを解明するためには、カテプシンKのカイネティクスを解析してミカエリス定数と代謝回転数を比較する必要がある。しかし、この反応系では基質が不溶性のコラーゲン線維であり、さらにカテプシンKが切断する部位も非特異的に複数存在することから、カイネティクスパラメーターを得ることは難しい。そこで見かけのパラメーター値を得て比較することも検討する。
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International Journal of Radiation Biology
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Journal of the American Heart Association
Biomolecules
巻: 10 ページ: E320
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http://www.med.hirosaki-u.ac.jp/~admed/department/index.html