研究課題
光駆動型イオンポンプであるロドプシン分子によるイオン輸送を、今までにないマイクロ秒オーダーの時間分解で測定する。バクテリオロドプシンなどのポンプ型ロドプシンは、光受容に伴う光反応サイクルにおいてイオンを能動輸送するが、その反応サイクルは数十ミリ秒程度である。過去のイオンポンプ活性測定では時間分解能がサブ秒~分オーダーであり、かつ膜電位、イオン濃度勾配などの電気化学ポテンシャル差の正確な制御が困難であった。本研究では電気生理学的手法にナノ秒フラッシュレーザーを組み合わせる。これにより、電気化学ポテンシャル差を正確に制御しながら、ロドプシンの光反応を1回のみ誘起した際のイオン輸送を測定し、輸送速度、輸送量を定量的に解析することで、光反応サイクルにおけるエネルギー変換メカニズムの理解に迫る。現在までにフラッシュレーザーを用いた高時間分解での電気生理実験系の構築を完了した。この実験系を用いてロドプシン分子のシングルターンオーバーあたりのイオン輸送量を定量的にかつ高い時間分解能で測定することが可能となった。特に現在までにプロトンポンプ、ナトリウムポンプの輸送測定実験を行った。その結果プロトンポンプロドプシンにおいては数マイクロ秒と数ミリ秒の時定数でのイオン輸送が分子内で起こることが判明した、またその時定数は膜ポテンシャルや、pH勾配により変化することも判明した。一方ナトリウムポンプロドプシンでも同程度の時定数でのイオン輸送が観察され、時定数の膜電位依存性が観察されたが、ナトリウム勾配依存性は観察されなかった。この結果をもとに現在論文投稿し(Biophysical J) 、現在はRevised versionを準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画の2年目前半(2019年9月)までに計画した実験を既に行い到達目標に順調に迫りつつある。本研究の目標は以下の問いに回答を出すことであった。(1)細胞膜内外の電気化学ポテンシャル差にどれだけ対抗してイオン能動輸送が可能か?(2)ポンプにとって膜電位差とイオン濃度差は等価か?(3)光エネルギー変換に最も重要な反応ステップはなにか?(1)については、プロトンポンプ型ロドプシン、ナトリウムポンプ型ロドプシンを試料とした計測によりおよそ200 mVから230 mVであることを証明した。(2)について、電気化学ポテンシャル差を構成する膜電位とイオン濃度差はロドプシン分子に必ずしも等価に作用しないことが判明した。熱力学的に等価であるはずの膜電位差とイオン濃度差が、ロドプシン分子に与える機構は同等でないということが示唆され、これはロドプシンタンパク質内部のプロトン化カルボン酸のpKaに対する効果が異なるということであろう。この点は今後のさらなる計測で明らかにしたい。以上のように実験系の立ち上げが予定したよりも早期に完了したことから順調に計測が行えていることから、計画以上に進展しているといえる。
今年度は、変異体の測定によって、より詳細なイオン輸送と電気化学ポテンシャル差の関係を探る。プロトンポンプにおけるプロトン輸送においてはロドプシン分子中に機能に重要なプロトン化カルボン酸 (グルタミン酸、アスパラギン酸) が同定されている 。これらアミノ酸残基それぞれに変異導入を行い、変異体のイオン輸送の計測を行う。そして各反応ステップに対する膜電位やイオン濃度勾配の関与を検証することで、光エネルギー変換に最も重要となるステップを同定する。同様の実験をナトリウムポンプでも試みる。ナトリウムポンプロドプシンにおいてもイオン輸送に重要なアミノ酸残基は報告されている。それぞれの重要なアミノ酸残基の変異体の解析により、ナトリウムイオン輸送時の、光エネルギー変換ステップを決定する。
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