研究課題/領域番号 |
18K06111
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒木 保弘 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (60345254)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | TORC1 / アミノ酸 / 細胞成長 / 細胞増殖 / 酵母 |
研究実績の概要 |
細胞が内外の栄養状態を感知し適切に応答することは生物の生存に必須である。真核細胞においてこの中心的な役割を担うのがTORC1である。リン酸化酵素を有するTORC1がアミノ酸に依存して細胞成長を制御する。TORC1のリソソーム(酵母では液胞)膜上での時間的空間的制御が栄養状態と細胞成長を協調する情報伝達のハブであることが明らかとなりつつある。アミノ酸によるTORC1活性化経路として、既知のGtr/Ego経路とは独立した新規経路に介在するPib2を研究代表者はこれまでに出芽酵母で見出している。更にTORC1の液胞局在にはGtr/Ego経路とPib2が介在する新規経路(Pib2経路)の二経路しかないことを示している。しかし栄養素がどのようにTORC1を活性化するのか、TORC1が何をリン酸化しているのか、というTORC1の制御と基質の分子機構の解明が最も重要な課題として残っている。 令和元年度は以下に挙げる点を明らかにした。① Gtr/Ego経路とPib2経路を同時に欠失した酵母は、TORC1が液胞上に局在することができないため生存することができない。この合成致死性を抑圧するTORC1の変異体を作出した。これにより、二経路のTORC1の活性化への必要性が厳密に検証することが可能となった。②この変異体では、アミノ酸混合物の添加によりTORC1が活性化した。従って、二経路を介さずにTORC1を活性化するアミノ酸があることが考えられる。③この変異酵母ではTORC1の液胞膜上局在を喪失したが、細胞内に大きな構造体を形成した。この構造体は液―液相分離によって生じた液滴の性状を有していた。この結果からTORC1は液胞膜上でなくても活性化しうることが明らかとなった。以上により、TORC1はGtr/Ego経路とPib2経路を介さずに、TORC1を直接の標的とする活性化機構が存在することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出芽酵母におけるアミノ酸によるTORC1活性化経路として、Gtr/Ego経路とPib2経路がこれまでに見出されている。本年度は、Gtr/Ego経路とPib2経路を同時に欠失する二重欠失酵母の致死性を抑圧するTORC1変異体を作出した。これにより、二経路のTORC1の活性化への必要性が厳密に検証することが可能となった。この変異体ではTORC1は液胞上に局在することができないにも関わらず、20種のアミノ酸を含む混合物によりTORC1は活性化した。この結果はGtr/Ego経路とPib2経路を介さずに、TORC1を直接の標的とする活性化機構が存在することを示唆する。近年アミノ酸に直接結合し、アミノ酸の存在状態をTORC1に伝えるアミノ酸センサーの分子同定が急速な進展を見せている。ロイシン、アルギニンを直接認識するセンサーとしてSestrinとCASTORが同定された。メチオニンは中間代謝産物SAMとしてSAMTORに感知される。これらのアミノ酸センサーは、GEFやGAPの活性を制御しRagのグアニンヌクレオチド型を変換することでRagの活性、ひいてはTORC1の活性を統制している。従ってアミノ酸センサーはTORC1を液胞膜上に係留するGtr/Ego経路とPib2経路の機能制御を介してTORC1活性制御を遂行していると考えられていた。しかし本研究によりTORC1を直接の標的とするアミノ酸センサーが存在することが初めて示唆された。また、Gtr/Ego経路とPib2経路の二重欠失酵母では、TORC1が液―液相分離によって生じる液滴の性状を有する大きな構造体を細胞内に形成することを見出した。液滴は細胞内で特定の分子を一過的に濃縮させることで生体内反応を促進させる場として機能することが知られている。TORC1が液滴を形成することでアミノ酸に対する応答をより鋭敏化している可能性が窺えた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に基づき以下の点を明らかにする。① これまでに得られたGtr/Ego経路及びPib2経路関連因子の中から、アイソトープラベルしたアミノ酸への個々のタンパク質の直接結合能を指標に、アミノ酸に直接結合しTORC1に情報を伝達するアミノ酸感知タンパク質(アミノ酸センサー)を単離及び同定する。得られた因子の欠損酵母では対応するアミノ酸に対する応答が失われていることを確認する。 また令和元年度にGtr/Ego経路とPib2経路を同時に欠失する二重欠失酵母から得られた知見に基づき以下の点を新たな課題として付け加える。②二重欠失変酵母内に形成されたTORC1構造体に含まれる因子を同定することによりTORC1を直接の標的とする活性化機構の解明、特にアミノ酸センサーの同定を試みる。同時にこの変異体をもちいて、TORC1活性化にGtr/Ego経路及びPib2経路を介さないアミノ酸を同定し、アミノ酸による活性経路の差異を明らかにする。③Gtr/Ego経路とPib2経路を欠失すると形成されるTORC1の液滴がアミノ酸の感知、TORC1の活性化に寄与するかを検証する。これには②で得られた知見をもとにTORC1の液滴形成に必須な因子を検索する。この因子を機能喪失することにより液滴形成が阻害された時にTORC1がアミノ酸に呼応して活性化するかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和1年度に “リン酸化特異的抗体の作製”を外部に委託するための予算を計上していた。これにはペプチド合成、ウサギ2羽免疫、全採血と精製吸収作業(リン酸化ペプチド固定化作業、精製作業、非リン酸化ペプチド固定化作業、吸収作業)が含まれる。これらすべてを外部委託するのが一般的であるが、精製吸収作業を委託せずに研究代表者自ら行った。その結果、精製吸収作業代30万円の経費削減となった。その他の物品費はほぼ予定通り使用しているため、この30万円を翌年度へ持ち越した。また、世界的な新型コロナウイルスの感染危機のため、出席を予定していた海外の学会がキャンセルになったため計上していた海外学会参加費を使用しなかった。以上は翌年度の海外学会参加費、論文出版経費として持ち越す。
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