タンパク質の原料であるアミノ酸を細胞は厳密に感知しており、リン酸化酵素を有するTORC1がアミノ酸に依存して細胞の増殖と成長を制御する。出芽酵母におけるアミノ酸によるTORC1活性化経路として、既知のGtr/Ego経路とは独立した新規経路に介在するPib2を申請者はこれまでに見出している。更に、TORC1活性化経路はGtr/Ego経路とPib2が介在する新規経路(Pib2経路)の二経路しかないことを示し、全てのアミノ酸はこの二経路を経由しTORC1を活性化していることを明らかにしている。本研究では、新規TORC1活性化経路であるPib2経路の全貌及びその制御機構の解明を通して「細胞は全20種のアミノ酸をどのように感知し、どのようにTORC1を活性化するのか」というTORC1を巡る最大の課題に迫った。 前年度までに、Ser3はPib2経路によって活性化されたTORC1にのみリン酸化される経路特異的基質であることを示した。令和3年度は以下の点を明らかにした。①Ser3はセリンの生合成に必須な酵素である。TORC1の阻害により細胞内セリン量が著しく減少した。これはTORC1によるリン酸化がSer3活性を促進する可能性を示唆する。②Ser3に対する抗体を作製し、リン酸化状態を精緻にモニタリングできるようになった。さらにパブリックデータベースを利用することでSer3上のTORC1によりリン酸化されうるアミノ酸残基の候補を取得した。③Pib2経路特異的基質であるSer3とGtr/Ego及びPib2の両経路共通の基質であるSch9を用いてPib2の基質特異性に関与するドメインを決定したところ、基質の特異性は異なる領域が必要であることが明らかとなった。④Ser3はタンパク質レベルでリン酸化による質的変化だけでなく、転写レベルでTORC1により発現量が厳密に制御されていることが判明した。
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