小胞体の恒常性は選択的オートファジー(ER-phagy)により維持されており、小胞体の不要になった領域が膜変形、膜分裂し、隔離膜に包まれて排除される。本研究は、膜変形タンパク質のプロテオスタシスの立場から小胞体の恒常性維持機構を解明することを目的とする。ER-phagyには小胞体の三つ又構造(three-way junction)が重要であり、昨年度までに、three-way junctionの形成に必須の小胞体膜タンパク質TMCC3を発見している。最終年度は解析を推し進め、以下の知見を得た。 TMCC3のN末細胞質領域にp30が結合した。p30の過剰発現は小胞体の網目状の膜形態を障害した。GFP融合TMCC3を安定に発現する培養細胞を樹立し、p30を過剰発現すると、GFP-TMCC3のthree-way junctionへの局在が消失した。従って、p30はTMCC3の局在を阻害することで、three-way junctionの形成を抑制すると考えられた。ER-phagy受容体を発現させた培養細胞でER-phagyを誘導し、TMCC3と膜変形タンパク質の動態を比較解析した。その結果、17残基のアミノ酸配列が隔離膜への取り込みを促進することを見出した。この配列に隔離膜への選別輸送シグナルが存在すると考えられた。ER-phagyにおける小胞体膜の量の恒常性維持機構を調べるために、脂質合成に重要な脂肪酸伸長サイクルに着目した。サイクルの最終段階を担うTrans-2-エノイル-CoA還元酵素(TER)に結合する分子として小胞体カルシウムポンプSERCA2bを同定した。TERはSERCA2b活性を制限し、カルシウムシグナルの持続時間を調節した。従って、小胞体膜合成とカルシウムシグナルの間に機能関係が存在すると考えられた。このように、小胞体の恒常性維持機構について新しい知見が得られた。
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