研究課題
脂質―タンパク質間相互作用はこれまでいくつか知られているが、物質輸送の関わるタンパク質の基質輸送活性や、多量体化に脂質が制御する例はこれまで報告されていない。我々は小胞型神経伝達物質トランスポーターの機能解析を積極的に取り組んでおり、その機能解析をする中で、脂質制御機構を明らかにした。この制御機構は脂質により小胞型神経伝達物質トランスポーターの機能や、構造変化が起こるというものである。小胞型神経伝達物質トランスポーターは、膜タンパク質であり、膜の中で機能していることから、膜の構成体である脂質の影響を受ける可能性は他の膜たんぱく質と同様にあった。しかし、その詳細については不明な点が多かった。申請者は小胞型神経伝達物質トランスポーターを研究する上で、高純度小胞型神経伝達物質トランスポーターを得て、構造生物学的展開を行ってきたが、その過程で、脂質相互作用に到達するに至った。膜タンパク質の脂質相互作用というと、これまでよく知られているのが、生理活性脂質による制御機構である。イノシトールリン酸や、プラズマローゲン、スフィンゴ脂質等による制御が知られている。小胞型神経伝達物質トランスポーターがどのような脂質により制御されているのかを詳細に探索することも、本研究の目的である。特に、脂質がどのように小胞型神経伝達物質トランスポーターの活性化を制御しているのかを分子レベルで明らかにするとともに、小胞型神経伝達物質トランスポーターと脂質結合部位を明らかにすることで、神経シグナル伝達の新規制御機構の全貌解明を試みている。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は小胞型神経伝達物質トランスポーターの脂質制御機構に関して制御機構の輸送の速度論的解析や、脂質結合部位の化合物スクリーニングを中心に行った。化合物スクリーニングでは、活性制御に必須の構造を解き明かし、その結合がどのように活性に影響するかを速度論的に解析した。脂質にはその特性上、親水部と疎水部に分かれるが、小胞型神経伝達物質トランスポーターはその両方が、別の制御をしていることを明らかにすることができた。また脂質と一言で言っても様々な分類もあり、イノシトールやプラズマローゲン、スフィンゴ脂質等様々な生理活性脂質も存在するが、これらと、小胞型神経伝達物質トランスポーターとの関与についても解析することができた。また、構造生物学的な解析に関しては、様々な脂質や界面活性剤、イオンなどの微妙な変化を調整することで、脂質制御機構を構造的に、分類し、自由自在にその構造を変化することができるようになった。この様子は電子顕微鏡のネガティブ染色でも確認済みで非常に重要な知見であり、このことは、今後、構造生物学的解析を行う中で非常に重要な要素となると考えている。さらに現在、これまでの結果を論文作成中であるが、膜タンパク質の新規の制御機構としても、たんぱく質ー脂質相互作用解析の新たな研究としても、小胞型神経伝達物質トランスポーターの新たな制御機構の発見としても重要であり、本結果は、特に神経化学伝達の根幹に迫れる非常に重要な研究と考えている。
本年度は脂質制御機構の構造生物学的理解を中心に行う。最近の研究で小胞型神経伝達物質トランスポーターにおいて脂質による制御機構を明らかにしたが、この制御機構は、原子間力顕微鏡を用いた解析により、構造的な変化を伴っていることを見出している。現在PLOS Biology誌に論文投稿中であるが、申請者はすでに大腸菌ホモログを用いた結晶構造解析を海外で取り行っており、その構造解析に関する条件等は、類縁体である哺乳類小胞型神経伝達物質トランスポーターにも活かす事が可能である。さらに、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDs)等の支援を通じて、クライオ-電子顕微鏡を用いた構造解析についても行い、脂質添加による構造変化を捉える。さらに構造変化が捉え次第、脂質結合部位のみならず、動的変化を起こす領域が明らかになれば、その領域に結合する化合物の探索も行う。さらに、構造生物学的に、結晶構造もしくは、クライオー電子顕微鏡により解析が進んだ場合には、構造の動的変化を捉える研究も遂行していきたいと考えている。基質や、脂質、イオンを加えた構造の動的変化や、変異体等を用いた動的変化を制御するアミノ酸残基の同定とその役割について詳細に検討していきたいと考えている。小胞型神経伝達物質トランスポーターは様々な疾患とも関与していることから、本研究の最終的なゴールは小胞型神経伝達物質トランスポーターを標的とした創薬であるとも考えているため、構造が取れた際には、ドラッグデザイン等も行っていきたい。
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