研究課題
本研究では、早期診断や病型分類ができる有用な腫瘍マーカーが存在しないために予後が非常に悪い3つの癌(膵臓癌、胆道癌、トリプルネガティブ乳癌)の新規腫瘍マーカーの探索を糖鎖に焦点を絞って探索を行っている。令和元年度では、交付申請書の「研究目的、研究方法」の項目に示したとおり、⑧~⑪について実施予定であった。さらに平成30年度にできなかった⑤と⑥について、以下、1つずつ研究の進捗状況を説明する。⑧膵臓癌、胃癌、大腸癌、食道癌の患者血清中のハプログロビン(Hpt)の糖鎖の構造解析は、すでに完了している。その結果、消化器癌か非消化器癌かの違いで、フコースの結合様式が異なっていることがわかった。⑨各患者のLewis血液型の情報は、診療記録(カルテなど)からは得られなかったため、この比較は行わない事とする。その代わり、Hptの対立遺伝子による表現型(Hpt1-1、Hpt2-1、Hpt2-2)の違いとその糖鎖構造の違いを比較することとした。その結果、表現型に特異的な糖鎖構造があることがわかった。⑩Hpt糖鎖の構造は、癌細胞の場所、臓器の種類で異なることがわかった。また、癌細胞が転移する前後でフコースの結合様式が異なっていた。さらに、そのHpt自身の生産機構もわかりつつある。⑪トリプルネガティブ乳癌の細胞表面の糖鎖構造を分析したが、癌部と非癌部、病型間で大きな違いは観察されなかった。詳細は違いを観る必要があると考える。⑤⑥胆道癌の組織検体は入手が困難であり、多検体は集められないことが分かったので、胆道癌の組織検体の実験は行わない事とした。ただし、胆道癌の血清検体は、②⑧⑨⑩で行っている。今年度(令和2年度)は、これらの成果をもとに、タンパク質上の糖鎖が腫瘍マーカーとして使えるのか?もしくは、どのように簡便迅速に測定できるのかを検討する。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書の「研究目的、研究方法」の項目で示したように、平成30年度では①~⑦を、令和元年度では⑧~⑪を、令和2年度(最終年度)では⑫と⑬そして論文投稿を予定していた。前項目の「研究実績の概要」で述べたとおり、令和元年度では⑤、⑥、⑧~⑪は実施済みであり、来年度の研究につながる結果を得ている。本年度(令和2年度)は⑫と⑬は、すでに開始しているため、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
交付申請書の「研究目的、研究方法」の項目で示したように、令和2年度では⑫と⑬を行う。以下に1つずつ説明する。⑫Hptは赤血球の溶血で腎臓から代謝されるはずのヘモグロビン(Hb)を結合し、その代謝による損失を防いでいることがわかっている。つまり、HptはHbと結合するのである。その結合の強度にHptの糖鎖およびHbの糖鎖の構造が関係しないのかを調べる。癌で変化するHptの糖鎖構造が、Hbとの結合能力に依存するのかも検討する。糖鎖分析は、現在、簡便迅速とは言えない。しかし、HptとHbの結合能は簡便迅速に測定できるため、この成果により新規の腫瘍マーカーで開発できる。⑬トリプルネガティブ乳癌の細胞表面の糖鎖構造解析は、⑪で行ったが、それほど、大きな違いは観察されなかった。⑪は糖鎖を細胞膜タンパク質から遊離して構造解析したが、本年度では、タンパク質から切り離さずに糖鎖の構造解析を行っていく。そのことにより、トリプルネガティブ乳癌で特異的なキャリアタンパク質を同定することも同時にできると考える。そして、最後に、論文化を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件)
Proteomics
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