研究課題/領域番号 |
18K06116
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
久保田 美子 岩手医科大学, 医学部, 准教授 (30260102)
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研究分担者 |
古山 和道 岩手医科大学, 医学部, 教授 (80280874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヘム / ミトコンドリア / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
我々は、ヘム生合成経路の律速酵素であるALAS1が、ヘム結合型になるとミトコンドリアマトリクスタンパク質分解酵素ClpXP複合体によって分解されることを見出した。このことは、ミトコンドリア内ヘムによるネガティブフィードバックがヘム産生の調節に関わっていることを示している。ヘム結合型ALAS1がClpXP複合体によってどのように認識され分解されるのか、分子機構を明らかにするするため、前年度は実験系の確立を行った。今年度はこの実験系を用いて、ALAS1N末端由来配列中のClpXPとの相互作用に重要なアミノ酸配列を解析した。ALAS1N末端領域の約90アミノ酸のうち、N末端側の半分は特に天然変性領域の特徴が強く、特定の構造を取りにくいと考えられた。C末端側の半分はヘムとの結合モチーフを含む領域である。そこでこの2つの領域をそれぞれ単離してモデル基質との融合タンパク質を作成し、ClpXPとの相互作用、ヘム依存的分解について解析した。N末側はヘム結合モチーフを含まないため、ClpXPとの相互作用が非常に弱く、ヘム依存性分解はみられなかった。C末側は、興味深いことにヘム結合モチーフを含んでいるにもかかわらず、ClpXPとの相互作用が非常に低かった。しかしヘム依存的分解は観察された。これらのことから、ヘムがC末側に結合した後N末側の領域がヘムとの結合を安定化するのに関わっている可能性が考えられた。さらに、N末側が存在するとALAS1由来配列がない時に比べ、別のミトコンドリアマトリクスタンパク質分解酵素であるLONP1との相互作用が低下していたが、C末側にはLONP1との相互作用が検出された。こららの結果から、N末側の天然変性領域は、ALAS1がヘムと結合した時にその結合を安定化させ、また、LONP1による分解からALAS1を守っている可能性があるのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に述べたように、ALAS1のN末端90アミノ酸はヘム依存的分解に必須の配列であり、この配列にヘム結合型のときのみClpXP特異的な基質となるしくみが存在している可能性が示された。このことは当初予想していなかった興味深い結果であり、今後この新規の機構について仮説を検証する必要がある。一方、昨年度から進めていた、N末端90アミノ酸領域のリン酸化による機能調節については、実験が当初の計画どおりには進んでいない。原因はリン酸化の検出系がまだ確立できていないことによる。これについては、この実験の経験者に方法を尋ねるなどして解決したい。また、来年度に予定していた試験管内再構成系を確立するため、ALAS1、CLPX、CLPPタンパク質を大腸菌で産生・精製する実験を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
ALAS1の約90アミノ酸からなるN末端に、ヘム結合型のときのみClpXP特異的な基質となるしくみが存在している可能性が示された。この新規の機構について仮説を検証する必要がある。具体的には、シクロヘキシミドを培地に加えて新規のタンパク質合成を抑制した条件で、モデル基質のヘム依存的分解やClpXP、LONP1との相互作用を解析する。このモデル基質にはALAS1N末端90アミノ酸のN末側またはC末側を融合させたものを用いる。新規タンパク質合成のない状態で、モデル基質が減少するとしたらこれがどの分解酵素によるのか、ヘムの有無によってそれが変わるのかなどについて明らかにしたい。課題として持ち越しているリン酸化の検出についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
発注時の定価と納入時の価格の差の総和である。最終年度には逐次残高を確認して使用する計画である。
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