研究課題/領域番号 |
18K06119
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
田崎 隆史 金沢医科大学, 総合医学研究所, 准教授 (70629815)
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研究分担者 |
佐々木 宣哉 北里大学, 獣医学部, 教授 (20302614)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ユビキチンリガーゼ / UBR4 / 腸管上皮特異的ノックアウトマウス / 大腸炎関連大腸がんモデル |
研究実績の概要 |
ユビキチンリガーゼUBR4はタンパク質のユビキチン化を担う翻訳後修飾酵素で、胎子発生、腎臓足細胞のポドシンやミトコンドリアPINK1の安定性、ヒトパピローマウイルスによる発がん、オートファジー経路等、多種多様な生理現象に関わっていることが示唆されている。マウスでは胎子発生に不可欠な遺伝子であるため、成体におけるUBR4の役割についての知見は得られていなかった。本研究では、成体における生理学的役割とその分子機構を明らかにするために、コンディショナルノックアウト(CKO)マウスを用いて組織特異的にUBR4遺伝子を不活化させ、個体及び遺伝子発現の変化を解析する。令和2年度では、令和元年度に続き、腸管上皮特異的UBR4遺伝子欠損マウスを用いてAOM/DSS誘導大腸炎モデルマウスおよび、HEK293UBR4欠損細胞の解析を実施した。 タモキシフェン誘導性Villin-Creマウスにより、腸管上皮特異的にUBR4発現が欠損していることをウェスタン解析により確認した。前年度より低濃度のDSS(1.5%)においても、腸上皮特異的UBR4欠損マウスではAOM/DSS投与により、対照群(野生型マウス)よりも大腸炎が悪化した。この結果は、腸管上皮細胞のUBR4がDSS投与による大腸炎誘導メカニズムに重要な役割を担っている可能性が考えれる。一方、高濃度のDSS(2.5%)では、野生型、UBR4欠損マウス共に大腸炎が劇症化し、その差がみられなかった。したがって、UBR4は初期の炎症応答経路において関与していることが示唆された。 次に、UBR4特異的な細胞内機能の解析を行うために、HEK293細胞をモデルとしてUBR4欠損細胞を確立し、RNA-seq法により網羅的な遺伝子発現解析を行った。野生型293細胞と比較して、mRNAの発現量が大きく変化していた遺伝子について、タンパク質発現を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度~令和元年度に、組織特異的UBR4遺伝子欠損マウスを複数作製した。このうち、肝細胞特異的UBR4遺伝子欠損マウス(以下、Alb-Cre:Ubr4CKO)、腸管上皮細胞特異的UBR4遺伝子欠損マウス(以下、Vil-Cre:Ubr4CKO)の成体を得ることが出来た。Vil-Cre:Ubr4CKO成体は異常を示さなかったが、アゾキシメタン(以下、AOM)およびデキストラン硫酸ナトリウム(以下、DSS)投与後、血便、体重減少を指標とする大腸炎が野生型と比較して悪化していた。令和元年度末に、Vil-Cre:Ubr4CKOを北里大学獣医学部(以下北里大)から金沢医科大学動物施設(以下、金沢医大)に移し、大腸炎関連大腸がんモデルマウス実験の再現性を検討したところ、DSS1.5%において、UBR4欠損による大腸炎の悪化が再現された。一方、DSS2.5%では、野生型とUBR4欠損型共に大腸炎が悪化し、その差が無かった。従って、UBR4は初期の炎症応答経路において関与していることが示唆された。 令和元年度に、腸管上皮細胞特異的UBR4マウスを用いた網羅的な遺伝子発現解析をRNA-seq法により実施した。DE分析により、少なくとも29個の遺伝子がDSS処理Ubr4 KOマウスで優位に変化したことが示され、 14の減少遺伝子が炎症と自然免疫応答に関係していた。この結果から、腸上皮特異的なUbr4遺伝子欠損は、インフラマソームの低下により、DSS誘導大腸炎が悪化することが示唆された。次に、UBR4特異的な細胞内機能の解析を行うために、HEK293細胞をモデルとしてUBR4欠損細胞をCRISPR-CAS法を用いて確立した。これらの細胞とHEK293を用いて、RNA-seq法により網羅的な遺伝子発現解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
腸管上皮細胞特異的UBR4遺伝子欠損マウスは、北里大と金沢医大では、DSSに対する感受性が大きく異なることが分かった。令和3年度は、再現性のある大腸炎モデルを確立する。そのうえで、大腸炎悪化により大腸がん発生率に変化があるかどうかを検討する。 一方、HEK293細胞を用いたUBR4欠損細胞の網羅的遺伝子発現解析によるデータ解析を進め、UBR4の腸管上皮細胞内での生理機能の解明につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年はコロナ禍のため、動物実験の規模を縮小し、そのため次年度使用額が生じた。令和3年度は、この次年度使用額を実験動物維持および動物実験等の消耗品(物品費)に使用し、追加(再現)実験を実施する。
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