ユビキチンリガーゼUBR4はタンパク質のユビキチン化を担う翻訳後修飾酵素で、多種多様な生理現象に関わっていることが示唆されている。マウスでは胎子発生に不可欠な遺伝子であるため、成体におけるUBR4の役割についての知見は得られていなかった。本研究では、成体における生理学的役割とその分子機構を明らかにするために、コンディショナルノックアウト(CKO)マウスを用いて組織特異的にUBR4遺伝子を不活化させ、個体及び遺伝子発現の変化を解析する。令和3年度では、令和2年度に続き、腸管上皮特異的UBR4遺伝子欠損マウスを用いて大腸炎モデルマウスおよび、HEK293UBR4欠損細胞の解析を実施した。 前年度までの研究で、DSS1.5%において腸上皮特異的UBR4欠損マウス(UBR4欠損群)ではAOM/DSS投与により、対照群よりも大腸炎が悪化した。そこで、さらに低濃度のDSS1.0%を用いたところ、対照群では体重減少(大腸炎の指標の一つ)が見られなかったのに対し、UBR4欠損群では有意に体重が減少した。したがって、腸管上皮細胞のUBR4がDSS投与による大腸炎誘導メカニズムに重要な役割を担っているというこれまでの仮説を補強する結果が得られた。AOM/DSS投与後、長期飼育することによって大腸がんを発生させたところ、UBR4欠損群では対照群と比較して、大腸がんの発生率および個数が増加していた。以上の結果から、UBR4は大腸炎と大腸がん発生において抑制的な役割を持っていることが示唆された。 CRISPR/CAS9システムを用い、HEK293細胞のUBR4欠損細胞株を2株、UBR4ヘテロ欠損株を1株作製した。親株を含めた4細胞株のRNA-seq解析を行ったところ、UBR4欠損細胞株で野生株に対して有意に変動した28遺伝子を得た。そのうち減少した遺伝子は7、増加した遺伝子は21だった。
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