研究課題/領域番号 |
18K06120
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
郷 慎司 川崎医科大学, 医学部, 講師 (10458218)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | O-GlcNAc / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
細胞膜構成脂質の一つ「糖脂質」はその糖鎖部分の構造の違いによって多様な分子種が存在し、その発現異常は様々な疾患につながる。各糖脂質の真の機能解明には、従来までの糖転移酵素遺伝子改変だけでは不可能な、糖脂質の緻密な量的・質的改変技術が必須である。 申請者は最近、タンパク質翻訳後修飾の一つ、“O-GlcNAc修飾”が糖脂質代謝を制御しうることを見出した。本研究では、「O-GlcNAc修飾による糖脂質代謝制御の分子機構を解明」し、「代謝制御機構理解に基づく新たな糖脂質発現制御法の開発」を行う。従来の遺伝子改変技術と新たな糖脂質発現制御法を組み合わせ、生細胞においてきめ細やかな糖脂質発現制御を行うことで、細胞における糖脂質の新たな機能の解明を目指す。 生体内のO-GlcNAc修飾の制御・機能に関しては不明な点がいまだ多く、非常に多くのタンパク質がO-GlcNAc修飾をうけるにもかかわらず、その修飾、脱修飾にはそれぞれ一つの酵素(O-GlcNAc転移酵素(OGT)、O-GlcNAc脱離酵素(OGA))しかない。この2つの酵素は栄養条件によって大きく変化することがわかった。また、OGT, OGAの発現を変化させると連動して互いの発現が変化し、O-GlcNAc化修飾を一定に保つことが明らかになった(日本生化学会発表)。徐々にその発現制御機構が明らかになってきたのと、それを制御する因子もわかりつつあり、将来的なO-GlcNAc修飾の制御法開発に関しても道筋が見えてきた。 また、O-GlcNAc修飾によって糖鎖関連糖の代謝酵素の発現が変化することが新たにわかり、糖鎖代謝の新たな制御機構が見えてきており、新たな展望が見えてきた(次年度以降に発表予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、「O-GlcNAc修飾量を変動させる因子の探索」、「糖脂質の細胞内動態解明の基盤作り」に注力し、ある程度進行できた。 細胞は非常に厳密にO-GlcNAc修飾量の恒常性を保つ機構が存在することがわかってきた。複数のO-GlcNAc修飾関連酵素が細胞培養条件に応じて相互に連動して発現変動し、O-GlcNAc化の恒常性を保っていることが新たに明らかになった。その発現変動を誘導する培養条件、薬剤、栄養素もおおよそ検討でき、加えて、O-GlcNAc関連酵素の過剰発現株、発現抑制株の作製も順調に行えたことから、ある程度任意のO-GlcNAc修飾状態の細胞株を得ることができた。また、それらの細胞の解析から、注目した糖転移酵素(GM3合成酵素、Gb3合成酵素)以外の糖鎖関連酵素の発現にO-GlcNAc修飾が関わることが新たにわかりつつあり、今後それらに関して新たな展開が期待できる。クリックケミストリーを応用した蛍光標識糖および蛍光標識脂質代謝中間体を細胞に取り込ませることで、細胞内の糖脂質代謝産物の局在を可視化すること、および生化学的細胞分画を組み合わせることによって細胞内の糖脂質代謝の場をある程度詳細に可視化分析することができつつあり、糖脂質の細胞内動態解明のための基盤が確立しつつある。「O-GlcNAc修飾改変時に変動するタンパク質群の探索」に関しては、上記の新発見はあったものの、本来の糖脂質発現制御に関わる因子に関しては順調に進んでいないため今後注力する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
O-GlcNAc修飾量を変動させる因子の探索に関しては、非常に多因子(栄養条件、増殖条件)が関与しており、繊細に制御されていることが明らかになったことから、今後さらに厳密な条件設定と検証を行う。それらの条件を培養細胞のみならず、動物個体にも応用し、個体レベル(臓器レベル)でのO-GlcNAc改変を試みる予定である。 また、O-GlcNAc改変に連動して、当初注目していたもの以外の糖鎖合成のための酵素群が大きく発現変動することが予期せず明らかになった。この分子機構を詳細に解析することで、糖脂質のみならず、糖タンパク質糖鎖の改変にも応用が可能になる道が開けた。こちらも詳細な分子機構の解明を進める。 O-GlcNAc関連酵素の過剰発現株、発現抑制株の作製、O-GlcNAc修飾量を変動させる因子の探索が進んでいることから、これらの細胞株や各種条件で培養した細胞株の糖脂質および代謝中間産物の網羅的解析を進める予定である。この代謝の流れを把握するため、蛍光脂質中間体、クリックケミストリーを用いた糖脂質代謝の細胞内動態を可視化技術の基盤を確立する。市販で手に入る蛍光産物は限りがあるため、市販のものを用いた代表例で確たる技術基盤を示し、化学合成系研究室とのコラボレーションの交渉を目指す。 各実験用設備、試薬、技術基盤が本年度で整ってきたため、より詳細な解析を進め、計画通りの遂行と新たな発見の詳細解明に注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部、受注生産のため納期が時間(数か月)がかかり、流動的なものを2019年年始に注文した。その納期が遅れたため、次年度に支払いが繰り越しとなってしまった。すでに納品され、実験計画に若干の遅れが出たものの遂行に支障なく進めており、すぐに次年度使用次年度額は使用される。
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