令和4年度はRas-MAPK経路のシグナル伝達における、細胞のシアリル化と膜上コレステロールの寄与について調べた。HeLa細胞のシアリル化を阻害するために、シアル酸転移酵素阻害剤(STI)で細胞を処理した。そしてシアリル化が阻害されていることを、蛍光レクチンを用いた蛍光顕微観察により確認した。STIで処理した細胞では、EGF刺激に伴うEGFRのリン酸化がコントロールDMSO処理細胞と比較して低下しており、EGFRの結合タンパク質であるGrb2の膜移行も損なわれることがわかった。STI処理した細胞では、ERKのリン酸化の低下は見られなかったが、ERKの細胞膜への移行(核への移行ではなく)が損なわれていることがわかった。興味深いことに、EGFRの発現量に対する膜上の分子数はSTI処理により増加することがわかった。これはEGFRのinternalizationが、STI処理により抑えられることによる可能性が考えられた。 コレステロールを除去したHeLa細胞において、EGF刺激によるEGFRのリン酸化は、STI処理時とは逆に増加することがわかった。しかしERKのリン酸化には影響を与えなかった。来年度は、MAPK経路のシグナル伝達におけるコレステロールとシアリル化の相乗効果について調べていく。またHRas-RRasのキメラタンパク質が発現した細胞における、STIの効果についても調べていく。
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