研究実績の概要 |
本年度は、Rasが駆動するERKの細胞膜移行メカニズム解明に取り組んだ。ERKのEGF刺激に伴う細胞膜へのtranslocation dynamics の計測を行った結果、以下のことが明らかとなった。(1)ERK1/ERK2はどちらとも、 EGF刺激により細胞膜へと移行する。さらにこれらの反応は、核への移行よりも早く起こることがわかった。(2)EGF刺激に伴うERKの膜移行シグナルは、EGFRの下流かつRafの上流で起こるものと考えられた。(3)ERKの膜移行に、ERK自身のキナーゼ活性またはN末領域(1-24aa)は必須ではないことがわかった。一方、ERKのC末領域(313-360aa)は膜移行に必須であった。(4)細胞をシアル酸転移酵素阻害剤で処理すると、ERKの膜移行/核移行はどちらともわずかに阻害されることが分かった。(5)ERKの細胞膜上における1分子拡散動体を計測したところ、ほとんどのERK分子はimmobileな状態を保持していた。ERKとactin filament が直接結合するという報告(Leinweberet al.,1999)があることから、actinに結合したERK分子を捉えているものと考えられた。活性型EGFR分子の多くは immobileな状態をとることが知られていることから、活性型のEGFRはERKを介してactinと結合している可能性がある。ERKはシグナル伝達の“反応の足場”として機能するかもしれない。そこでactin/ERK/EGFRの相互作用をin vitroの系で直接捉えるために、actin分子の調製に着手した。actinの昆虫細胞発現系の構築を行い、目的のアクチンタンパク質の発現を確認した。次年度は、H-RasのC末領域をR-RasのC末領域に置換した際の、ERKの上記挙動について解析する予定である。
|