研究課題
DYRK1Aは脳神経系の発生・機能に重要なキナーゼで、その過剰発現はダウン症候群の原因の一つである。また最近になってDYRK1Aの欠損がMRD7という精神遅滞症を引き起こすこと、さらにDYRK1Aの変異が自閉症スペクトラム障害と強く相関することも明らかにされ、ヒト脳の構造・機能の正常な発育・機能にDYRK1Aが果たす役割の重要性が注目されるようになっている。これまでの研究でDYRK1Aの細胞内特異的結合タンパク質として種間で高度にアミノ酸配列が保存されたWD40リピートタンパク質であるWDR68を同定し、その機能解析を行なった。今回さらに新規のDYRK1A結合タンパク質をさまざまな方法を用いて探索し、有力な候補としてFAM53Cを同定した。FAM53Cはその生化学的・生理学的な機能がこれまでに明らかになっていない機能未知のタンパク質である。そこでDYRK1AとFAM53Cとの相互作用とその生理的機能について詳細な解析を行なった。相互作用の解析はヒトFAM53CのcDNAを新たに単離し、種々のタグを付加して哺乳類培養細胞に発現後、共免疫沈降実験によって行なった。その結果、確かにDYRK1AとFAM53Cが細胞内で複合体を形成すること、DYRK1AのキナーゼドメインがFAM53Cの認識結合部位であることが明らかとなった。またFAM53CとDYRK1Aが物理的に相互作用するのみでなく、DYRK1AがFAM53Cをリン酸化することを示唆する結果を得た。さらに上述の主要DYRK1A結合タンパク質であるWDR68はDYRK1Aを介してFAM53Cと同一複合体に含まれること、すなわちDYRK1AがFAM53CとWDR68とを会合させる足場として働くという新たな機能を持つことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究によって主要なDYRK1A結合タンパク質であるWDR68を同定したことは、キナーゼ活性を中心に進められてきたDYRK1A研究にタンパク質相互作用の重要性に着目させる意義があった。今回新たにDYRK1A結合タンパク質をさらに発見したことで、DYRK1Aの細胞内での存在様式や制御機構の解明にタンパク質間相互作用ネットワークの観点からの新たな展開が期待できる。またこれまで機能が不明だったFAM53Cタンパク質の細胞内機能を新たに明らかにできる可能性がある。これらの点から、本研究計画の初年度の段階としてはおおむね順調な研究の進展が見られたと判断できる。
今後、新たに同定したDYRK1A結合タンパク質である機能未知のFAM53Cの生化学的・細胞生物学的な機能の詳細の解析を続ける。具体的にはDYRK1AとFAM53Cとの相互作用がDYRK1AやFAM53Cの細胞内局在にどのような影響を及ぼすか、またDYRK1AによるFAM53Cのリン酸化がFAM53Cの細胞内局在や機能にどのような影響を及ぼすか、さらにWDR68を含んだ三者複合体の細胞内での生理的機能や複合体形成による各成分タンパク質の局在・機能にどのような影響があるかを調べる。手法としてはこれまでの研究で確立した哺乳類培養細胞を用いた発現系と共免疫沈降実験を用いる。また必要に応じてそれぞれのタンパク質の各種変異体を用いる。市販の抗FAM53Cは必要とされる品質を持っていないことが判明したので、新たに受託による良質のFAM53C抗体を作成する。
DYRK1A結合タンパク質の探索の初期段階で、タンパク質相互作用データベースを対象としてコンピューターを用いたin silico法を援用し、実験研究に用いる試薬類が計画よりも少なかったため、次年度使用額が生じた。一方で新規同定結合タンパク質FAM53Cに対する市販抗体の性能が基準に達しないことが判明したため、次年度に受託により抗体作成を行う予定であり、そのために当初計画になかった受託費用として次年度使用額を利用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Biochemical Journal
巻: 475 ページ: 2559-2576
10.1042/BCJ20180230
http://www.y-miyata.lif.kyoto-u.ac.jp/