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2020 年度 実施状況報告書

ダウン症責任キナーゼDYRK1A-WDR68複合体の生理機能の解明

研究課題

研究課題/領域番号 18K06131
研究機関京都大学

研究代表者

宮田 愛彦  京都大学, 生命科学研究科, 助教 (70209914)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードDYRK1A / WDR68 / WD40ドメイン / タンパク質キナーゼ / 分子シャペロン / シグナル伝達 / タンパク質間相互作用 / FAM53C
研究実績の概要

DYRK1Aは脳・神経系の発生および機能に重要なキナーゼで、その過剰発現はダウン症候群の原因の一つである。また最近、DYRK1A遺伝子の変異による機能不全が自閉症スペクトラム障害と強く相関すること、アルツハイマー型認知症とDYRK1Aとに密接な関連が見られること、注意欠如多動性障害(ADHD)とDYRK1Aの発現量とに関連が見られること、DYRK1Aの欠損がMRD7という精神遅滞症候群の原因であること、などが明らかにされ、DYRK1Aがヒト脳の構造と機能に大きな生理的役割を持つと想定される。これまでの研究でDYRK1Aの細胞内結合タンパク質として植物からヒトに至る広範な種間でアミノ酸配列が高度に保存されたWD40リピートタンパク質であるWDR68(DCAF7)を同定し、その機能と構造の解析を行なった。ヒトではDYRK1Aと類似のアミノ酸配列を持つDYRK1B, DYRK2, DYRK3, DYRK4があり、計5種類のキナーゼファミリーを形成する。これらの各分子に特異的に結合する細胞内タンパク質の単離・同定を進めている。上記のFAM53CはDYRK1AおよびDYRK1Bに特異的に結合した。また、広く多くのシグナル伝達キナーゼの構造と機能を保障する分子シャペロンHsp90/Cdc37がDYRK1BおよびDYRK4と特異的に結合した。DYRK1Aと上記シャペロンの安定な複合体は観察されなかった。Hsp90の特異的阻害剤であるgeldanamycin、17-AAG、ganetespib処理によってDYRK1B・DYRK4は細胞内での安定性を失って凝集体を形成し、ユビキチン化されてやがて分解された。以上の結果から、様々な細胞内タンパク質が同じファミリーに属する5つのキナーゼの中から特定の分子を特異的に認識して各々のキナーゼ固有の細胞内機能を制御する可能性が考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

これまでの研究によって主要なDYRK1A結合タンパク質であるWDR68を同定するとともに、同じファミリーに含まれるDYRK1BおよびDYRK4がストレスタンパク質・分子シャペロンであるHsp90およびCdc37と複合体を形成することを明らかにしてきた。これらの研究成果は、キナーゼ活性を中心に進められてきたDYRK1A研究においてタンパク質相互作用の重要性を明白にする意義があった。今回新たに別のDYRK1A結合タンパク質を同定したことで、DYRK1Aの細胞内存在様式や制御機構の解明にタンパク質間相互作用ネットワークの観点からの新たな展開をもたらす可能性がある。近年、DYRK1Aの精神・神経機能における広範な役割の重要性が明らかとなってきたことを考えると、本研究成果は単に細胞生物学的・生化学的な意義に留まらず、広くヒト脳の精神機能の分子的基盤の解明に寄与すると期待できる。一方、上記研究成果の一部を発表する論文を投稿中であるが、改訂にレビューアーから要求された多大な追加実験のために長い時間が掛かった。またコロナ禍で幾つかの実験には予定以上の時間が掛かり、かつ予定されていたDYRK1Aに関する国際会議が数回に渡って延期されて参加できないままになっており、全体として予定よりはやや進捗が遅れている。

今後の研究の推進方策

DYRK1Aのヒト脳の精神機能における重要性にますます注目が集まるようになってきたが、DYRK1Aが細胞の中でどのように機能し、どのように制御されているかについては、未解明の点が数多くある。今後は特に今回新たに見出したDYRK1Aの結合タンパク質FAM53Cとの関連に注目し、FAM53Cがどのようなタンパク質と相互作用し、DYRK1Aの機能や細胞内局在、基質の認識やリン酸化にどのような影響を与えるのかについて、主にタンパク質生化学および細胞生物学的な観点から実験研究を進める。特にこれまでに同定して詳細な解析を進めているWDR68との関連性について調べる。手法としてはこれまで同様に哺乳類培養細胞を用いた解析を行なう他、それぞれのタンパク質を精製して用いる再構成系の構築を行ないそれを用いた解析を援用する。得られた結果から、ヒト脳の精神機能においてDYRK1Aを中心としてどのような分子群がどのような働きによって高次機能を制御しているのかについて、その分子的基盤に結びつくような視点をもたらしたい。コロナ禍のために何度か延期が繰り返されているDYRK1Aに関する国際会議は今後の状況を鑑みて開催が決まった場合には参加して成果報告を行いたい。

次年度使用額が生じた理由

本来研究計画最終年度に参加予定であったDYRK1Aに関する国際学会がコロナ禍の為に再三延期となったままで、そのために申請した海外出張の旅費・日当は全く使用しないままになっている。また、研究成果の一部をまとめた論文を投稿中であるが、改訂の為に要求された実験に時間が掛かっているために本来予定していた実験の一部の実施が保留中である。状況が好転して今後上記国際学会が開催される場合には参加の上成果報告を行う予定である。また、投稿中の論文は近々改訂版を再々投稿の予定であり、受理されれば引き続き本研究課題の残りの実験研究を遂行する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2021 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] A cyclic lipopeptide surfactin is a species-selective Hsp90 inhibitor that suppresses cyanobacterial growth.2021

    • 著者名/発表者名
      Nakamoto, H., Yokoyama, Y., Suzuki, T., Miyamoto, Y, Fujishiro, T., Morikawa, M. and Miyata, Y.
    • 雑誌名

      Journal of Biochemistry

      巻: 170 ページ: 255-264

    • DOI

      10.1093/jb/mvab037

    • 査読あり
  • [備考] 京都大学 大学院生命科学研究科 多細胞体構築学講座 シグナル伝達学分野 助教 宮田 愛彦

    • URL

      http://www.y-miyata.lif.kyoto-u.ac.jp/

URL: 

公開日: 2021-12-27  

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