研究課題/領域番号 |
18K06136
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研究機関 | 盛岡大学 |
研究代表者 |
成田 新一郎 盛岡大学, 栄養科学部, 教授 (30338751)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞内タンパク質分解 / 表層ストレス応答 / 細菌細胞表層 / プロテアーゼ / 外膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
グラム陰性細菌の外膜は必要な栄養素などを選択的に透過させるとともに、抗生物質などの生体異物に対する障壁として機能している。外膜はその外葉がリポ多糖(LPS)で構成されているのが特徴であり、LPSは生体異物に対する抵抗性を外膜に付与するために重要である。LPSは内膜で合成された後、一群のLptタンパク質によって外膜に組み込まれる。LPS輸送の最終段階では、β-バレル型タンパク質LptDとリポタンパク質LptEの複合体が外膜LPSトランスロコンとしてLPSの外膜への挿入を触媒する。ペリプラズム空間に存在するBepAはシャペロン様活性とプロテアーゼ活性を併せ持つタンパク質であり、LptDの生合成の促進と品質管理を介して外膜の機能的完全性の維持に寄与している。本研究はBepAがどのようにしてLptDの生合成状態を識別し、シャペロン様活性とプロテアーゼ活性を使い分けているかを明らかにすることを目的としている。これまでに、本研究と関連する共同研究の結果から、BepAの立体構造がX線結晶構造解析により決定されている(J. Mol. Biol. 431: 625-635)。結晶構造から、BepAの9番目のα-ヘリックス(α9)を含むループ領域はプロテアーゼ活性部位を覆い、基質の活性部位へのアクセスを妨げていると考えられた。また、活性部位の亜鉛イオンへの水分子の結合もα9に存在するアミノ酸残基によって阻害されていた。そこで令和元年度はBepAのα9に変異を導入し、in vitroおよびin vivoにおいてBepAのプロテアーゼ活性の検討を行った。その結果、α9がBepAのプロテアーゼ活性を抑制していること、およびBepAがプロテアーゼ活性を発揮するためにはα9の移動を伴う構造変化が必要であることを示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造解析に基づいた変異体の作製により、BepAのプロテアーゼ活性の発現機構について、大きく理解が進んだ。また、作製した変異体を用いることで、BepAのプロテアーゼ活性を定量的に測定できる実験系の構築に目途が立った。一方で、今回作製した変異体はin vitroにおいて自己切断を起こしたことから、令和元年度は自己切断を抑制する変異のスクリーニングが必要となり、時間を要した。このため、当初予定していたin vitroでのプロテアーゼの反応速度論的解析系の構築や、基質特異性の検討については、令和2年度に持ち越しとなった。以上のような進捗状況を総合し、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られたBepAのプロテアーゼ活性制御機構に関する知見をまとめ、発表することに注力する。BepA変異体を用いたin vitro解析系を発展させ、プロテアーゼの反応速度論的解析を可能とする実験系の構築も行う。また、in vitro実験系を用いてBepAのプロテアーゼ活性の基質特異性について検討することにより、生理的基質であるLptD の分解機構を推定する。BepA-LptD間の時間分解相互作用についても、構築したBepA変異体を活用して解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、in vitroでのBepAのプロテアーゼの反応速度論的解析系の構築および基質特異性の検討を予定していたが、BepAの自己切断を抑制するための変異体取得など、in vitro実験系の構築に時間を費やした。このため、当初予定していた実験に使用する予定であった蛍光基質などの試薬等の購入を見合わせた。令和2年度はBepA変異体の作製・精製、及びそれらを用いたin vitroプロテアーゼ活性測定実験に必要な試薬・消耗品の購入費、令和2年度から所属することとなった研究機関における研究継続に必要な機器の購入費および機器の輸送費に次年度使用額を充てる。
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