大腸菌のペリプラズム空間で働く亜鉛メタロプロテアーゼBepAは、リポ多糖の生合成に働くβ-バレル型タンパク質であるLptDの外膜へのアセンブリを促進するとともに、アセンブリが阻害された場合はLptDを分解除去することで外膜の頑健性維持に働く。BepAの結晶構造ではプロテアーゼの活性部位が9番目のヘリックス(α9)を含むループ状の構造によって覆われているとともに、このループ中にある246番目のHis残基(His-246)が活性中心のZn2+イオンに配位し、基質の分解に必要な水分子の結合を妨げている様子が観察されている。 本研究課題ではBepAのα9を含むループ(α9/H246ループ)に欠失変異を導入した変異体や、His-246を他のアミノ酸に置換した変異体を作製し、これらが恒常的にLptDを分解するようなることを明らかにした。令和2年度は反対にBepAにジスルフィド結合を導入してα9/H246ループの動きを制限することにより、BepAによるLptDの分解が抑制されることを明らかにした。また、これらの研究成果をまとめて公表した論文において、BepAのα9/H246ループが通常はプロテアーゼ活性の発現を抑制しており、LptDを分解する際にはα9/H246ループの可逆的な構造変化を伴ってBepAのプロテアーゼ活性が誘導される「ヒスチジンスイッチモデル」を提唱した(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 117: 27989-27996. 2020)。 令和2年度はBepAのα9/H246ループの欠失変異体のプロテアーゼ活性を蛍光タンパク質を用いて経時的に検出する実験系の構築も行った。この実験系を用いてBepAのプロテアーゼ活性を定量的に解析することにより、プロテアーゼによる基質認識機構やプロテアーゼ活性の制御機構についての理解が進むことが期待される。
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