研究課題
浸潤性がん細胞は浸潤突起と呼ばれるアクチン繊維に富む細胞膜の突起状構造を形成する。浸潤突起は細胞外基質を分解する活性をもち,がん細胞の浸潤・転移と密接に関係している。浸潤突起の形成と機能には微小管とアクチン繊維の2種の細胞骨格の相互作用が不可欠であるが,その分子メカニズムはこれまでのところほとんど明らかになっていない。また,浸潤突起には小胞輸送により細胞外基質分解酵素などが極性輸送されるがその制御機構についても未解明の点が多く残されている。本研究では,微小管とアクチン繊維の双方に結合するタンパク質に注目し,がん細胞の浸潤突起形成,浸潤転移に関わる可能性を検証し,その分子メカニズムを明らかにすることを目指す。また,浸潤突起への小胞輸送を制御する可能性についても解析する。本研究を進めることは浸潤転移の分子機構を理解することにとどまらず,がんの診断,治療の標的を提示する可能性も秘めていると考える。研究代表者は,浸潤突起の形成に関わる新規分子として、MAPファミリーのタンパク質に着目し、解析を行ってきた。昨年までに、転移性がん細胞株の浸潤能とその発現パターンに相関があるかをイムノブロッティングにより解析した結果、転移性がん細胞でのみ高い発現をもつMAPタンパク質を同定した。今年度は、MAPタンパク質と浸潤突起関連タンパク質との相互作用を解析した。その結果、浸潤突起を構成するアクチン重合促進タンパク質と相互作用することを見出した。また、この浸潤突起構成タンパク質が微小管と相互作用することも見いだした。また、MAPタンパク質の遺伝子破壊細胞を作製し、in vitro、in vivo(ヌードマウス)の両方で浸潤突起形成能および細胞増殖を評価した。予備的結果ながら、MAPタンパク質の遺伝子破壊は浸潤突起形成能と増殖能に抑制的な効果をもたらすことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
浸潤突起の成熟に関わる小胞輸送タンパク質を同定し、その性状を解析できたので。
同定したMAPタンパク質の発現分布を実際のがん患者の組織において解析する。mRNAレベルでの発現についてもqRT-PCRを用いて解析する。また、MAPタンパク質と微小管、アクチン繊維、小胞輸送との関連について解析を進める。
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J. Cell Biol.
巻: 218 ページ: 3355-3371
10.1083/jcb.201808149