研究課題/領域番号 |
18K06140
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
潮田 亮 京都産業大学, 総合生命科学部, 研究助教 (30553367)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | レドックス / 小胞体 / 分子シャペロン / カルシウム / タンパク質品質管理 / 小胞体関連分解 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
小胞体内腔はサイトゾルと比較して非常に酸化的な環境であり、これまで還元酵素の存在は明らかにされてこなかった。2008年、研究代表者は世界で初めて小胞体内腔で還元酵素として働くERdj5を同定した(Ushioda et al., Science 2008)。これまで、酸化反応の場としてのみ信じられていた小胞体内腔において、還元酵素ERdj5の発見によって小胞体における還元反応の重要性が次々と明らかになった。 我々は、これまで不明であったSERCA2bの還元メカニズムに対して、ERdj5の還元活性が寄与しているのではないかと考え、ERdj5とSERCA2bとの関係に焦点をあてた。哺乳類細胞を用いた実験の結果、ERdj5はSERCA2bのジスルフィド結合を開裂し、SERCA2bのポンプ活性を活性化していることを明らかにした。また、研究の過程で興味深いERdj5の性質を明らかにした。環境中のカルシウム濃度が高い場合、ERdj5はオリゴマーを形成し、不活化することがわかった。申請者は小胞体内腔のカルシウム濃度をERdj5自身が感知し、ポンプ活性を制御していることを明らかにした(Ushioda et al., PNAS 2016)。なぜ還元されるとSERCA2bのポンプ活性は活性化されるのか、構造学的見地から解析を進めており、世界で初めてSERCA2bの酸化型および還元型の結晶構造解析に成功した(Inoue et al., Cell Reports. In press)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ERdj5欠損細胞を用い、カルシウムセンサーGCampを用いてIP3受容体を介したサイトゾルへのカルシウム放出を観察した。また、ERdj5による還元反応を観察するため、細胞をTCA(trichloroacetic acid)沈殿によって酸化還元状態を固定し、IP3受容体の酸化・還元状態をチオール基の修飾試薬で観察した。 ERdj5によるIP3受容体の制御を直接観察するため、より純粋な系を開発する。東北大学工学部平野研との共同研究により、電気生理学的手法を用い、IP3Rの活性を一分子で観察することに成功した。 IP3受容体の小胞体内腔側ドメインにはシステイン残基が4つ存在する。これまでレドックス制御によりIP3受容体の活性が調節される2つのシステインは特定されており、この2つのシステインペアが開裂するとERp44が結合することがわかっている。残り2つのシステイン変異体を作製し、IP3受容体の性質を観察したところ非常に興味深いことがわかった。IP3受容体は、四量体を形成し、初めてチャネル活性を有する。この2つのシステインはIP3受容体の四量体形成に必須のシステインであることがわかった。これらのことをまとめ、論文投稿を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を論文としてまとめ、国際誌への掲載を目指す。また、ERdj5以外の新たな酸化還元酵素がこれらチャネルやポンプの制御に関与することを想定し、その候補因子のスクリーニングを同時並行して行う予定である。これまでジスルフィド結合依存的な結合は、酵素反応の場合、非常に速やかに結合・解離が起こるため、捕捉することが困難であった。研究代表者と産総研の新木主任研究員によって、ジスルフィド結合依存的なクロスリンカーを用いることで安定的に反応中間体を捕らえ、これまでに検出できなかった基質を検出することが可能となった(Araki, Ushioda et al. Anal. Biochem 2017)。このクロスリンカーを用い、SERCAおよびIP3受容体のジスルフィド結合依存的な結合因子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
電気生理学的手法によるIP3Rの活性測定では、従来とは全く新しい解析手法であるため、条件検討に時間をかけ、一部消耗品費を繰越しすることになった。
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