以前、還元酵素ERdj5の還元活性が小胞体内腔カルシウムポンプSERCA2の小胞体内腔へのカルシウムイオンの取り込みを促進することを見出し(Ushioda et al. PNAS 2016)、小胞体における還元酵素がカルシウム恒常性にも影響を与えることを発見し、ERdj5がタンパク質品質管理およびカルシウム恒常性のクロストークに重要であることを見出した。今回、ERdj5の重要性を明らかにするため、ERdj5ノックダウン/ノックアウトをした線虫、CRISPR/Cas9を用いて樹立したERdj5欠損HeLa細胞、またはマウスから樹立したMEF細胞を用いて、ERdj5欠損による細胞内異常を観察した。線虫では、これまで知られていた筋肉以外の腸などの細胞でミトコンドリアの断裂が観察された。このミトコンドリアの断裂は、哺乳類細胞HeLa細胞、MEF細胞でも再現された。小胞体局在タンパク質ERdj5の欠損が、なぜミトコンドリアの形態に影響を及ぼすのかを調べた。以前の研究で、ERdj5欠損は、SERCA2bの活性を抑制し、小胞体カルシウムイオン濃度を低下させることを明らかにしたが、サイトゾルのカルシウムイオン濃度が恒常的に上昇することを突き止めた。ERdj5欠損細胞では、カルシウムイオン濃度依存的に活性化するDrp1が活性化しており、Drp1のGTPase活性依存的にミトコンドリアのくびり切りが起こることを見出した。ERdj5欠損によるミトコンドリア異常断裂はミトコンドリア機能の低下を引き起こし、細胞内での活性酸素種(ROS)を上昇させた。このことにより、細胞のアポトーシスを惹起させ、この細胞死は神経変性疾患などの疾患を悪化させる可能性も示唆される。また、線虫のERdj5欠損は線虫の寿命を低下させることも明らかにした。これらの知見は当該研究課題が目的とするERdj5制御に関し、その重要性を再認識する結果となった。これらの成果を論文としてまとめた(Under Revision)。
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