研究課題
膜タンパク質が凝集を起こさずに膜に挿入するためにはSecトランスロコンと呼ばれる膜透過チャネルが必要であるが、膜貫通部位を1つもしくは2つしか含まない短い膜タンパク質の場合はSecトランスロコンを必要としない。しかし、このトランスロコン非依存経路においても、MPIaseという糖脂質がタンパク質がうまく膜に挿入するためには必須である。そこで、基質タンパク質としてPf3を用い、Pf3がMPIaseにどのようなサポートを受けて、凝集することなく膜の中に挿入されか、そのメカニズムの解明を試みた。Pf3の膜挿入状態の解析固体NMR法(PISEMA)を用いて、Pf3の膜挿入状態の解析を行った。Pf3の疎水性部分と塩基性アミノ酸2残基を含んだC末端側24残基の部分ペプチドPf3_24を用いて解析した結果、Pf3_24はヘリックス構造を構成しており、膜の法線方向からわずか14度傾いた膜貫通状態にあることが分かった。さらに、当研究所で合成したMPIaseの最小活性構造であるmini-MPIase-3を用いて、mini-MPIase-3存在下、非存在下におけるPf3_24の膜挿入角度を比較したところ、膜配向状態に変化はないものの、Pf3_24がmini-MPIase-3に結合したことにより運動性が遅くなり、さらに残基によっては2,3の違ったコンフォメーションを取ることを明らかにした。膜構成要素の違いによる膜挿入状態変化の比較ジへプタノイルフォスファチジルコリン(DHPC)の臨界ミセル濃度を利用して、疎水性のペプチドの膜挿入状態を解析する方法を確立した。この方法を用いて、MPIaseと膜挿入抑制因子ジアシルグリセロール(DAG)にはそれぞれ膜挿入、抑制効果があることを確認した。さらに、大腸菌を構成する脂質の一つであるフォスファチジルエタノールアミン(PE)にも膜挿入阻害効果があることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
MPIase存在、非存在下における基質タンパク質Pf3全長の膜挿入状態の比較を試みたものの、Pf3は全長ではなかなか膜に挿入しなかった。そこで、全長での解析を断念し、Pf3の部分構造の解析に変更した。この点以外では問題なく進んでいる。
これまでにMPIaseのピロリン酸部分やグルコサミン内のO-アセチル基部分がタンパク質の膜挿入活性に必要であることが、膜挿入活性実験によって示されている。これらの結果はMPIaseのピロリン酸とPf3のC末端部分の塩基性アミノ酸との静電相互作用や、MPIaseのO-アセチル基とPf3の疎水性残基との間の疎水性相互作用がタンパク質の凝集抑制に重要であることを示唆している。そこで、固体NMRを用いてこれらの相互作用の詳細を原子レベルで解析する。さらに、Pf3の全域に対してMPIaseとのドッキングシミュレーションを行い、Pf3に対する相互作用部位を推定する。O-アセチル基、ピロリン酸の有無による相互作用部位の違いも解析する。また、Pf3と同様なSec非依存的膜挿入を行う基質タンパク質に対しても同様の計算を行い、Pf3で得られた相互作用の傾向の一般性を確認する。一般に糖鎖の相互作用は弱いために、糖鎖が集まってクラスターを形成していることが知られている。MPIaseの糖鎖を蛍光標識しておき、平面膜の顕微鏡観測を行うことで、会合状態を検証する。
すべて 2019 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Biophys. J.
巻: 117 ページ: 99-110
https://doi.org/10.1016/j.bpj.2019.05.014
J. Synth. Org. Chem. Jpn.
巻: 77 ページ: 1096-1105
https://doi.org/10.5059/yukigoseikyokaishi.77.1096
生物物理
巻: 59 ページ: 295-299
https://doi.org/10.2142/biophys.59.295
http://www.sunbor.or.jp/rd/labo01.html