本研究の目的は、膜と相互作用する膜貫通タンパク質のペプチド骨格を模倣したプローブ分子を創製し、膜との相互作用特性についての学理を究明する事である。具体的には、疎水性のαヘリックスを中心に、両末端に水溶性のカチオン性残基を有するペプチドを合成し膜との相互作用を評価した。膜透過性ペプチドとして知られるアルギニンをN末端にもたせることで、リン脂質二重膜を透過するとともに、疎水的なαヘリックスの存在により、膜タンパク質のように強固に膜中に突き刺さったまま保持される分子の作製を目指した。蛍光修飾したペプチドを用いた細胞標識により細胞膜へアンカーすることができた。また、本ペプチドと膜との相互作用を定量的に評価するために、分子動力学法を用いたエネルギー計算および、熱測定を行った。膜貫通タンパク質や糖脂質には細胞の働きを調節する各種受容体が多く存在することから、タンパク質と脂質二重膜の相互作用機序を解明し思い通りに制御する事が、様々な細胞レベルでの病気の治療法や診断法につながると期待されている。しかし、これまでの膜可視化は主に脂質や糖脂質に蛍光や抗体を修飾する事で行われ、膜や膜タンパク質との相互作用が調べられてきたが、プローブ脂質が膜から脱離するため、観測時間には限りがあるという問題がある。そこで、膜貫通ペプチドに共通のモチーフであるαヘリックスである単純なモデルとして6Kペプチドに着目した。実験に加えて計算によって膜貫通型の安定性を評価することで、膜との相互作用の様子を考察した。本研究により、膜にアンカーするペプチドを作製できたので、長時間の細胞標識などが期待できる。
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