研究課題/領域番号 |
18K06148
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 隆太 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (50598472)
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研究分担者 |
恒川 直樹 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任研究員 (90638800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Na+,K+-ATPase / 能動輸送 / イオン選択性 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
Na+,K+-ATPaseのNa+選択機構、すなわち、Na+,K+-ATPaseはどのようにして3個のNa+を識別し、自己燐酸化反応を開始しているのかを明らかにするために、3個のNaが結合したE1.3Na状態、1個のMnが結合したE1.Mn状態、さらには1個のMnから3個のNaに置き換わる過程の中間状態の結晶構造を明らかにしようとしている。既にE1.3Na状態の構造は決定できたので、本年度はその他の状態の構造決定に取り組んだ。その結果、E1.Mn状態の構造を決定できたほか、中間状態の構造決定のために様々な濃度のNa/Mnの組み合わせの回折データを得ることができた。また、当初、予定していなかった燐酸化反応に向かって生じる構造変化を見積もるために、すでに得られているE1.3Na状態の結晶にATPアナログであるAMP-PCPをソークした(E1.3Na.ACP)。その結果、明瞭にAMP-PCPが結合した状態が確認でき、燐酸化反応が起きる直前までの構造変化の過程をも追うことができた。また、いまだに謎の多いNa+,K+-ATPase と脂質二重膜との相互作用を原子レベルで明らかにするためにE1.3Na結晶を用いて結晶内の脂質二重膜の可視化に取り組んでいる。昨年度の予備実験ではNa+,K+-ATPaseの結晶では初めて脂質二重膜を可視化できる可能性を示せたので、本年度は本格的な解析に向けて、様々な濃度の溶媒コントラスト変調剤を加えたE1.3Na結晶の回折測定を行い、膨大な回折データを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
E1.Mn状態の構造決定は予定通りできた。一方、中間状態の構造決定にはやや苦戦している。Na/Mn濃度変化に伴う構造変化は確認できているものの、イオン結合状態を明確に判定できるほどの精度が得られていない。一方、ATPアナログを用いたE1.3Na.ACP状態の構造は予想以上に良好に回折データが得られ、現在、最終的な構造決定の段階である。また、脂質二重膜の可視化については溶媒コントラスト変調法に必要な膨大な回折データを得ることができ、本課題全体としては順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
中間状態の構造決定については精度向上のために引き続き、様々なNa/Mn濃度比の結晶の回折測定し、E1.3Na.ACP状態と合わせて今年度中に構造決定する。脂質二重膜の可視化について、ひとまず膨大な回折データを収集できたので、溶媒コントラスト変調法に基づく解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
中間状態の構造決定には精度に問題があり、解決のためには更なる回折測定だが、昨年度はコロナ禍の影響もあって十分な回折測定が行えなかった。また、本課題開始時には予想されず、思わぬ大きな進展を示しているE1.3Na状態の脂質二重膜の可視化については順調に回折データを得られているものの、最終的な脂質二重膜の可視化に至るには時間がかかるため、今年度も継続して行う必要がある。したがって、本年度使用しなかった分をこれらの研究費として使用する。
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