研究課題/領域番号 |
18K06150
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野亦 次郎 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (40583216)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 酸素 / 蛍光タンパク質 / 光合成 / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
分子状酸素は、生物にとって最も重要なガス分子の1つである。酸素は呼吸、 免疫、活性酸素種の生成、クロロフィル生合成など多様な生化学反応において利用される。また、酸素が転写因子や酵素を直接的に活性化(不活性化)するなど、シグナル分子としてはたらくことも報告されている。しかし、生体内の酸素濃度やその変動に関する知見は今日でも限定的である。 糸状性シアノバクテリアAnabaena sp.PCC7120(A.7120)は、窒素固定能を有し、窒素欠乏条件下におかれると細胞十数個おきにヘテロシストと呼ばれる異化細胞を分化する。ヘテロシストは、酸素感受性の窒素固定酵素ニトロゲナーゼを酸素から保護するため、その内部を低酸素化すると考えられているが、ヘテロシスト分化において細胞内が低酸素化されていく過程を直接調べた例はない。そこで本年度は、細胞内の酸素濃度をモニターできる蛍光タンパク質プローブの開発を目標として研究を行った。 細菌が持つ天然の酸素センサータンパク質(DosP; Direct oxygen sensor protein)はヘムを含むタンパク質で、環境中の酸素濃度にあわせて酸素分子を結合・解離する性質がある。このDosPのヘム結合ドメイン(DosH)と蛍光タンパク質を、最適化したポリペプチドリンカーを使って結合させて融合タンパク質にすることで、酸素分子を結合したときにDosHが起こす吸収変化を蛍光タンパク質の蛍光の消光の度合いの変化に変換するという原理の新規の酸素センサータンパク質 (ANA: anaerobic/aerobic sensing fluorescence protein)を開発した (Nomata and Hisabori,2018, Sci.Rep.)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、細胞内の酸素濃度をモニターできる蛍光タンパク質プローブを開発し、このプローブを利用して窒素固定性シアノバクテリアAnabaena sp.PCC7120(A.7120)のヘテロシスト分化過程における細胞内酸素動態を調べることを目的とする。本年度は細胞内の酸素濃度をモニターできる蛍光タンパク質プローブの開発を目指して研究を行った。黄色蛍光タンパク質Venusと細菌のヘムタンパク質DosPのヘム結合ドメインであるDosHを組み合わせて融合タンパク質にすることで、酸素存在下で蛍光強度が1.7倍に増加する酸素センサータンパク質を作製することができた。この酸素センサータンパク質は、6μM以上の酸素を検出可能であり、A.7120の光合成による酸素発生をin situにおいて高い感度で検出できた。申請者はこれを「ANA」(anaerobic/aerobic sensing fluorescence protein)と名付け、報告した(Nomata and Hisabori, 2018, Sci.Rep.)。現在は、ANAをシアノバクテリアにおいて発現させるための準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では蛍光タンパク質をベースとした酸素センサータンパク質プローブ「ANA」を開発した。今後は、まずセンサーとしての変化率を大きくするため、ANAを構成する各タンパク質に変異を導入して改変を行う。例えば、VenusとDosHの接触面に位置すると推定されるアミノ酸残基を対象に変異導入を行い、変化率の向上を試みる。その後、シアノバクテリアA.7120においてANAを発現させるためのシャトルベクターを作製し、これをA.7120に導入する。組み換え株を単離し、ANAの発現を確認した後、この組み換え株を利用して細胞内酸素濃度をモニターする系を確立する。
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