研究課題
核磁気共鳴法 (NMR) は生体高分子などに対し原子分解能レベルで立体構造、動的状態、薬剤相互作用など多様な情報を得る事ができる。この10年X線結晶解析、クライオ電子顕微鏡などの構造解析技術が大規模に自動化されている一方でNMR解析は現在もなお経験論や手動解析に依存した部分が多い。申請者は高い自動化性能を求めるため深層学習の技術を取り入れる世界初の試みに成功し、令和2年度においてはこれらの技術的基盤をさらに発展させ、経験が無い初学者も高速高精度に解析を達成し、創薬研究に取り組めるシステムとして公開することを達成した。安定同位体ラベル化された蛋白質を用いる場合、多数の多次元スペクトルより得るべきNMR信号数は例えば76残基の蛋白質ですら4千個近い真の信号を検出する必要がある。これは従来の自動ピーク検出法で得ようとするならば多数のノイズを含む2万個以上の信号を検出してしまう。研究代表者は世界に先駆けて人工知能の一種である深層学習によるノイズ除去を高精度に実行可能な機能を搭載した解析ツールを公開し、国際誌への掲載に成功した。入力として検出されたNMR信号を画像化し、畳込みニューラルネットに加えピ信号数・強度分布による統計的情報を最終段のニューラルネットへ入力し、ノイズの可否を総合判定する。この機能は単純な信号強度のみならず、信号近傍の状況を視覚的に人工知能(AI)が経験したイメージに基づいた判別が行われ人間の直感に近い処理が実行される。また、多次元スペクトルの非線型取り込み法(NUS)を利用したNMR測定を代表者自らが実行することで測定時間を25%まで短縮し、令和2年までに合計18件も構造を自動解析により達成し、そのうち12件は測定から構造解析、データ検証の完了までわずか数日、さらに2件は人間の手ほぼを全く介さない完全自動化を実現した。これらの成果を国際誌に投稿する準備中である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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