研究課題/領域番号 |
18K06153
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岡 宏造 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30201966)
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研究分担者 |
熊崎 茂一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40293401)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光合成 / 反応中心 / 電子移動 / キノン / FTIR / 超高速分光 / ヘリオバクテリア / 緑色イオウ細菌 |
研究実績の概要 |
1.ヘリオバクテリア反応中心の結晶化・構造解析:ヘリオバクテリア反応中心のコアタンパクについては、ようやく空間群R32結晶(結晶学的非対称)の高分解能解析(分解能2.28Å)が終了し、キノン分子が片方(R側)(左/右を便宜上L/Rとする)の電子移動経路のみに存在することが明らかとなった(未発表)。2つの構造が最終的に得られ(Form 1とForm 2)、さらにForm 2のキノン結合部位周辺には2つのconformers(立体構造異性体; molAとmolB)が観察された。これらの結果は、現在、論文発表に向けて鋭意努力中である。一方、ヘリオバクテリア反応中心は電子供与体としてシトクロムc(PetJ)、末端電子受容体としてFA/FBタンパク(PshB)をサブユニットとしてもつ複合体であるが、反応中心の可溶化・精製段階で容易に外れてしまうことが分かっている。そこでPshBおよびPetJの大腸菌による大量発現系を構築し、X線結晶構造解析に取り組んだ。PshBについては良質な結晶が得られていないが、PetJについては分解能1.25Åの構造解析が終了した。 2.超高速分光による過渡吸収変化の測定:ヘリオバクテリア反応中心のサンプルに10 mM ジチオナイトを加え、室温において初期電荷分離状態(P800+A0-)の形成過程までを調べた。810 nm励起後、4つのスペクトル成分間(B776, B787, B800, B312)でのエネルギー移動が0.2 ps以内で平衡に達し、色素間の強い励起子相互作用の存在が示された。さらにDADS解析からは、20 psで減衰する816 nmのブリーチが観測され、電荷分離形成(P800+A0-)のトラッピング時間を示していると解釈された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘリオバクテリア反応中心のX線結晶構造解析(分解能2.28Å)は終了し、反応中心はホモダイマーであるにも関わらず、本来的に非対称の性質を持つことが示唆された。キノン分子が片方の電子移動経路のみに存在することが明らかとなったものの、機能的意味を見いだすことが出来ない状態が続いている。当初の計画では超高速分光による過渡吸収測定によるキノン成分の検出、あるいはフーリエ変換赤外分光(FTIR)による光駆動キノン還元反応(キノール生成反応)の検出を試みる予定であったが、新型コロナ感染症拡大の影響も少なからずあり、引き続き来年度も計画を進めることにした。 一方、100fsポンプ・プローブ分光法による超高速分光では、エネルギー移動および電荷分離反応の詳細な測定を実施することができたことは成果として大きい。レーザー照射後、20psで初期電荷分離状態P800+A0-が立ち上がるが、最近の理論的解析に基づき、816nmのブリーチは①P800とAccessory BChl gとの励起子カップリング、あるいは②red-BChl gsに由来することが示唆された。これらの成果については、論文として発表することができ、今後の分光測定による検証のヒントが得られたことは意義深い。 また緑色イオウ細菌反応中心の構造解析については、Cryo電顕による解析を進めているが、昨年(2020年)、中国のグループが先に報告した。しかし我々の構造中には中国のグループが報告していないシトクロムczサブユニットが含まれており、相違点を明確にして論文化することを考えている。過去我々は、複合体中には2分子のシトクロムczサブユニットが存在することを分光学的に証明しており、実際の構造解析において確認できた点は成果として大きい。
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今後の研究の推進方策 |
まずコロナ禍で予定通り進めることが出来なかったヘリオバクテリア反応中心の超高速分光による過渡吸収測定を実施する。100fsポンプ・プローブ分光法による超高速分光おいて、通常の分光セルではサブピコ秒からミリ秒までの時間領域の過渡吸収測定は不可能である。そこで特殊な分光セルであるspinning wheelを用いた測定を試みる。この際、これまでミリ秒領域での繰り返し測定で適切な人工ドナーやアクセプターの候補を検討してきたが、それらの有効性についてもspinning wheelを用いた超高速分光で確認する予定である。特にA0もしくはA1(キノン分子)から直接電子を引き抜くアクセプターが見つかることを期待している。また反応中心に含まれるカロテノイドの機能について再検証する。予備的な測定ではあるが、P800へのエネルギー移動には深く関わっていないことを示唆するデータが得られており、緑色イオウ細菌反応中心におけるエネルギー移動との違いを明らかにする。さらに反応中心に含まれるキノンの機能を探る目的で、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)による光駆動キノン還元反応(キノール生成反応)の検出を試みる予定である。 ヘリオバクテリア反応中心の構造解析については、コアタンパクにPetJサブユニットを結合した状態でCryo電顕による解析を進める予定である。in vitroの再構成実験ではPetJのヘムcから反応中心P800への電子移動速度が遅く、結合のaffinityが弱いと考えられる。そのため共結晶による構造解析よりもCryo電顕による解析が適していると期待され、両者の相互作用部位の特定を行う。すでにコアタンパクとPetJは単独でのX線結晶構造解析が終了しており、ドッキングモデルの構築も可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)現在までの進捗状況で述べたように、今年度は新型コロナ感染症拡大の影響もあり、計画通り研究を進めることができなかた。また超高速分光測定およびフーリエ変換赤外分光(FTIR)測定に使用する標品調製を大量に行う必要がなかった。そのため、可溶化に必要な界面活性剤や精製に必要なNi樹脂および試薬類の購入をしなかった。これらの理由により、次年度使用額が生じた。 (今後の使用計画)次年度の研究遂行に必要とされる試薬類・消耗品類の購入費として使用予定である。
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