令和2年度は、収縮性の長い尾部を有するマイオウイルス科の黄色ブドウ球菌ファージS6のクライオ電子顕微鏡による構造解析を行った。ファージS6は、ゲノムサイズ270 kbp、全長480 nmの巨大ファージである。このファージは、収縮性の尾部をもっており、尾部の収縮はファージゲノムを宿主へ放出する機能と深く関与している。尾部収縮の仕組みを理解するために、2万5千枚以上の電子顕微鏡画像を取得し、そこから、収縮前後の尾部の構造をそれぞれ0.30、0.31 nmで決定した。ファージS6は、非常に巨大であるので、1枚の写真に1~2粒子しか写らないので、非常に多数の写真を撮影する必要があった。尾部の主要部分は、Tail sheathとTail tubeの2層構造をしているが、決定したクライオ電子顕微鏡の密度図に基づいて、構成するタンパク質の原子モデルの構築と、その構築した原子モデルから、尾部収縮の際のタンパク質の構造変化の詳細とその仕組を明らかにすることができた。一方、ファージS6の頭部キャプシドは、直径約140 nmの球殻構造をしている。その頭部の構造も、正二十面体対称性を用いて、0.36 nmの分解能で構造を決定することができた。S6の頭部は、他の巨大ファージと同様に、T=27の対称性をもっていた。キャプシド主要タンパク質の原子モデルの構築を行い、他のファージとは異なる挿入ドメインの存在などが明らかとなった。この頭部キャプシドは安定した球殻構造と形成し、内包しているゲノムDNAを外部から保護する役目を担っている。
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