研究課題/領域番号 |
18K06164
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
宗行 英朗 中央大学, 理工学部, 教授 (80219865)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | F1-ATPase / 分子モーター / エネルギー論 / 非平衡 / 準静的過程 / 熱散逸 |
研究実績の概要 |
F1モーターはATPの加水分解反応により遊離される自由エネルギー(Δμ)を利用して回転運動を起こし,そのエネルギー変換効率は今までのところ,ほぼ100%に到達することが知られている.本研究はそのような理想的動作ができる限界をΔμをできる限り大きくして見極め,逆にそのような動作のメカニズムを理解することを目的としている. 残念ながら,下記の研究の進捗状況に記したように,実験そのものは確実な結果を得るところまで進んでおらず,研究実績を原著論文としての発表と捉えるとすれば,はっきりとした研究実績としてあげられるものはまだ無い.関連した研究として好熱菌由来のF1モーターのエネルギー変換効率については,好熱菌の生理的生育温度での回転観察を行って,そのエネルギー変換効率を求める実験を進めつつある.また好熱菌のF1モーターの反応スキームにおいてATPase反応の加水分解産物であるリン酸が解離するタイミングは,もう一つの加水分解産物であるADPの遊離より後であることが提唱されているが,我々はその節に反する結果を得つつあり,その結果についての報告を生物物理学会で行った.これに関連する論文は現在執筆中である.また,生体エネルギー変換の一般的な理論モデルとしてのラチェットモデルについての研究を行って,学会発表をした.特に仙台で開かれたSwedenとの共同開催であるMolecular Motor Workshop,An Update on Molecular Motors: Open Challenges and New Perspectivesではで,招待講演として発表させてもらい,エネルギー論全般についての議論を深めることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究計画は,F1モーターの回転を様々な条件で観察して熱散逸を測定し,ATP水解のΔμとの一致性を確かめようという極めて単純且つ,得られる結論はF1モーターの機能の限界はどこにあるかという非自明な問いに対する答えを与えるものである.しかし回転電場の実験装置が長い間稼働していなかったため,様々な調整が必要であったとともに,実験者である宗行の装置の取り扱いを含めた実験についての習熟度が低く,未だに有意な結果が得られていない.一応,サンプルの調製,観察用ガラス基板の化学修飾,顕微鏡ステージの調整などは終わり,金コロイド粒子を回転プローブとした近接場照明による回転観察系は立ち上げることができたが,回転電場装置のほうは動作が不安定で,その原因を追求しているところである.
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今後の研究の推進方策 |
上記のように進捗状況としては,かなり遅れているが,今のところ問題になっていることは実験者の技量による部分が大半であるので,時間と労力をかければ解決可能であると考えている.逆に,時間をかけて実験技術に習熟しないとできないことが判ってきたので,焦らず,じっくりと研究を続行してゆく方針である.
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次年度使用額が生じた理由 |
【現在までの進捗状況】 の項に記述したように,実験装置の調整や,実験者である宗行の実験技術の向上に多くの時間が割かれてしまった結果,予定していたリン酸MOPなどの高価な試薬を使う実験までは研究が進まなかった.また,実験装置の調整などは,実験者が自ら行うもので,時間はかかるが費用はかからないため,かなりの予算が未消化になった,次年度は,今年度にあまり使わなかったリン酸モップ関連の支出が大幅に増える見込みである.
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