研究課題/領域番号 |
18K06164
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
宗行 英朗 中央大学, 理工学部, 教授 (80219865)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | F1モーター / エネルギー変換効率 / ストールトルク / 安定性 |
研究実績の概要 |
2019年度は,好熱菌由来の野生型のF1モーターをもちいて,その回転観察とHarada-Sasa熱の測定を試みた.回転観察自体はある程度の成功率で行えたが,回転電場の印可装置の具合が悪く,その原因の追及に時間を費やしてしまった.単純な配線ミスがあることが判ったが,それだけが原因ではなく,現在も不調の原因を検討中である.さらにHarada-Sasa熱の測定も久しぶりに行ったため,条件設定が上手くいかず装置の不調と併せて,残念ながら今のところ有意な結果は得られていない. 一方,「F1モーターが準静的に動作できる限界を探る」という目標に沿ったこととして,F1モーターに対する変異導入とエネルギー変換効率が100%に近くなる動作,すなわち準静的な動作の関係についての知見を得ることができた.この研究ではβE190D変異を導入した好熱菌F1をもちいた.この変異体は従来から反応速度が遅く,それがATPのγリン酸の解裂に関係していることが既に判っており,さらに条件によって,通常とは別の反応経路をとるなどのことも判っていたが,今回の実験でストールトルクが野生型より小さく,エネルギー変換効率が低いことが判った,同時に,熱安定性が低いこと,γサブユニットがないとα3β3のリング構造を保持できないこともあきらかになり,反応過程でα3β3のリングとγシャフトの相互作用が弱くなるときに,スリップを起こすことが推定された.この結果は,3/29 に Biophys.J.もオンライン版に出版されており,2019年度の実績としてあげられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年は,はっきりと遅れている,という認識であったが,今年度は実験系の問題点がいくつか判ってきており,今後の改善の見込みが出てきていること,平行して行っていた変異体の研究をまとめて出版して,本研究の目的に沿った成果をだすことができたので,やや遅れている,というところまで挽回できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
回転電場による実験は装置が不調のまま放置することはできないので,当初の目標を堅持しつつ継続的に実験を行う.少なくとも,ATP再生系存在下でのストールトルクとHarada-Sasa 熱の測定はポジティヴコントロールを取りながら信頼性のある結果が出るまで継続する. 一方で,変異体を用いた研究も展開してゆきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は,回転電場の印可装置の不調の原因の追及に時間を費やしてしまったが,装置はほぼ手作りに近いもので,外部に修理を委託するようなことはできず,もっぱら手持ちの部品と測定器で一つ一つ問題点をチェックしてゆくという時間のかかる作業が多かった.そのため,予定していたほどの支出はでなかった.また,論文の出版もしたが,時期的に年度末にacceptされたので,出版費の請求はまだ来ておらず,それも予算を使い切らなかった原因になっている. 装置の状態はまだ完全とは言えないので,地道なチェックと改善の作業が続くが,それが終われば,リン酸検出キットなどの高価な試薬が必要になるので最終的に予算が余ることはないと考えている.
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