研究課題/領域番号 |
18K06165
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
町山 裕亮 東京医科大学, 医学部, 講師 (40704606)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子イメージング / T細胞 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
抗原認識は免疫系の根幹といえる機能であり、T細胞と抗原提示細胞の接着面で起こり、抗原-抗体による相互作用を細胞内シグナルに変換している。抗原受容体TCRを入口としたT細胞内シグナル伝達経路の構成因子は数多く同定されているが、時空間的な制御メカニズムは不明な点が残されている。本研究では各因子の動的な振舞いと細胞膜の構造ダイナミクスを可視化する実験系を確立し、T細胞抗原認識の動的な振舞いを理解することを目的としている。昨年度までにシグナル分子の1分子イメージングの光学系は完成しており、本年度はT細胞シグナル関連分子の挙動を観察すること、細胞膜の構造変化が観察できる実験系の確立を目指した。 T細胞はCD4T細胞とCD8T細胞に大別され、Lckが抗原認識したTCRにリクルートされ、TCRやその関連分子がリン酸化されることがT細胞シグナルの出発点となる。この機構にCD4T細胞とCD8T細胞とで違いはないと考えられてきたが、本研究の実験系を用いて、TCRとともに抗原認識を担う共受容体CD4・CD8分子とLckの挙動を観察した。その結果、CD8は既報通りTCRにLckをリクルートすることが主な機能である一方で、CD4はTCR複合体の構造安定性を増強しTCRの停滞時間を長くすることでLckの衝突確率を上げていることが分かった。CD4T細胞とCD8T細胞で遺伝子レベルでの違いは多く報告されているが、細胞内シグナルの違いに言及した最初の事例となる。 細胞膜の構造変化を可視化できる実験系は高さ方向に対する空間分解能が十分ではなく完成には至っていないが、間接的に膜構造の変化がシグナルに寄与することを示す実験系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標は1)T細胞シグナル分子の挙動を観察して、生物学的意義を抽出すること、2)T細胞シグナルの構成因子として細胞膜の構造変化も考慮に入れるために、それをを可視化する実験系の確立を目指した。 目標1)に関しては、T細胞シグナルの最上流に位置するTCR、共受容体であるCD4,CD8及び、Lckキナーゼの挙動を観察して、CD4T細胞とCD8T細胞との間でシグナル変換機構に大きな差異があることを見つけ出した。 目標2)に関しては、抗原受容体が抗原を認識することで細胞膜の構造が変化し分子ふるいとなりシグナル関連分子だけを集める場として機能すると予測し、2焦点結像系を用いて高さ方向の変化を検知することを計画していた。しかし、高さ方向の十分な分解能が得られなかった。そこで、直交円偏光照射系や反射干渉系を用いることで当初の計画を達成を試みている。それと同時に間接的にはなるが、細胞膜のシグナルへの寄与を示す実験系を確立した。本研究では、細胞間接着を直接観察するのではなく、抗原提示できる平面二重膜を用いており、平面膜上の分子密度を自由に変えることができる。そこで、異なる分子密度で1分子観察を行い、各分子の結合・解離定数を計測する。分子密度と結合・解離定数との相関を取ることで細胞膜がシグナルに相加・相乗的に寄与するか調べることが可能になった。新規の実験系で生命現象を直接可視化する生物物理的な理想とは異なるが、生命現象を明らかにするという点では順調に計画は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
CD4T細胞とCD8T細胞とでシグナル変換機構に違いはありそうだが、TCRは遺伝子再構成による多様性を示すため、1種類のTCRの組み合わせでは一般化しているとはいえない。そこで、現状でクローニングされているTCRを用いてこれまで見えた現象の本質の一般化を試みる。現在10種類程度のTCRが使用できるので、これらを用いてT細胞イメージングを細胞生物的アウトプット観察していく。 細胞膜の構造変化に関しては実験系の確立できたので、条件を変えて観察することでT細胞の抗原認識における細胞膜の役割を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞膜の構造変化を可視化する実験系を構築する過程で現有顕微鏡にレンズ、フィルター類の変更が必要になると計画していたが、試薬の選別することで解決可能となり、顕微鏡の改良を行っていないことが次年度使用額が生じた理由である。 当初はANDマウスで発現する抗原受容体だけを想定していたが、現在の研究の拡がりを考慮すると現在開発できた実験系を用いて様々な分子、細胞を使用する必要がでてきた。商品となっているものは購入し、そうでないものは自らクローニングする必要があり、これらの費用として次年度に使用する。
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