抗原認識に伴うT細胞の活性化は免疫応答を惹起するための根幹となる細胞機能である。T細胞活性化に関わるシグナル分子は数多く同定されているが、シグナル伝達は分子間の動的な相互作用の中で行われるため、時空間的な制御機構があると予測されているものの、確証がもてるエビデンスは提示されていない。本研究では分子イメージングを用いてシグナル伝達が起きている「場」を可視化すること、同定されている分子以外の重要な因子の探索を研究目的とした。 前年度までに分子イメージングによる1分子レベルでの分子挙動を可視化する実験系および解析法の構築は終わっている。その中で、CD4ヘルパーT細胞とCD8キラーT細胞に大別されるT細胞サブセット間で細胞内シグナルに変換する最初のステップに関わるLckキナーゼの挙動が異なること、その挙動を決める共受容体CD4、CD8の機能的な違いを示した。本年度は抗原の刺激強度を質的、量的に変化させることでLckの挙動や共受容体の依存性が変わってくるか調べた。CD8はLckのリクルートと関連するため、刺激強度を質・量的に変化させてもその依存性は変化は見られなかった。一方で、CD4は抗原受容複合体の構造的な安定性に関わるため質的な刺激強度を弱くしていくとCD4の依存性は高くなることを見出した。また、人工的にCD4の結合力を強化すると弱い刺激強度であっても活性化できることが分かった。これらの事象は特定のT細胞でのみ起きる現象ではなく、異なる抗原を認識するT細胞を使用しても同様な結果が得られており、教科書的に描かれている共受容体の機能とは異なる新規の知見が得られた。
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