本研究は、光で活性化されて環状アデノシン一リン酸(cAMP)を産生する特異なタンパク質、光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)の機能改変および新規類似タンパク質の機能解析を進めることにより、オプトジェネティック・ツールとしての有用性を高めることを目指すものである。最近結晶構造が解明されたシアノバクテリア由来PAC(OaPAC)に対して変異導入あるいはドメイン交換を行うことにより、活性化キネティクスや基質特異性の変化したタンパク質の創出を行う。同時にゲノムデータ上に存在するPAC類似遺伝子について、アデニル酸シクラーゼ欠損大腸菌株を用いた機能解析と精製タンパク質の分光学的、酵素学的解析を進め、新しいツールの素材を探索する。 1. PACの機能改変 2019年度までに、スピロヘータ由来PAC(TpPAC)に対する部位特異的変異導入を行い、GTPを基質とするグアニル酸シクラーゼへの転換を試みてきた。その結果、ポジティブな変異体を得たものの、活性は低く、実用レベルとはいえなかった。さらに変異体のスクリーニングを進めたが、顕著に活性の増大したものを得ることはできなかった。そこで2020年度からは既知グアニル酸シクラーゼの触媒ドメインをOaPACの触媒ドメインと交換した組換えタンパク質を作成し、検討を継続している。 2. PAC類似遺伝子の機能解析 2020年度は新たに3種類のPAC類似遺伝子を対象に機能解析を行い、本研究全体で16種類について検討したことになる。その結果、9種類については明らかな活性がみとめられ、その中には顕著に活性が高いものもあり、今後ツールとしての有効利用が期待される。また、酸化還元酵素触媒ドメインを有する点で特徴的な、硝酸菌由来PAC(NaPAC)について酸化還元酵素活性の測定に成功した。これは光で細胞内の酸化還元環境を制御するツールの創出につながる成果と考える。
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