研究課題/領域番号 |
18K06171
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
向山 厚 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (80647446)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生物時計 / シアノバクテリア / 時計タンパク質 / 分子進化 |
研究実績の概要 |
シアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC7942株 (Se)の生物時計はSe-KaiA, Se-KaiB, Se-KaiCの3種類のタンパク質によって構成される。中でもSe-KaiCは、自己リン酸化、自己脱リン酸化、ATPase活性を持ち、それらの活性はSe-KaiA、Se-KaiBが共存すると、約24時間周期でリズミカルに変動する。さらにSe-KaiCは振動子としてのみならず、生物時計の周期調節の役目を担っていることが、最近の研究から明らかになりつつある。ATPaseの前定常状態解析において、Se-KaiCは単独でも減衰型の振動を示す。その波形から固有振動数を見積もると、時計の振動数(周期の逆数)と見事な一致を示す。これらの結果は生物時計の言わば源振がSe-KaiCの中にエンコードされていることを意味しているが、こうした機能解析を基軸に、他種のKaiCの性質について検証することはシアノバクテリア生物時計の進化・多様性・生育環境への適応について有益な情報をもたらすと期待される。 今年度は他種シアノバクテリア由来KaiCホモログの大腸菌による発現、性質の異なるクロマトグラフィーを用いた単離、そして機能解析を行った。様々な発現ベクター、培養条件を組み合わせたKaiCホモログ発現スクリーニング系を整備し、その結果6種類のKaiCホモログの取得に成功した。これまでに得られたすべてのホモログがSe-KaiC同様、極めて低いATPase活性を示す一方、自己リン酸化・自己脱リン酸化活性については一部のホモログでは見られなかった。また、前定常状態解析から求められた固有振動数には1日に1回に相当する振動数を中心とした分布が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の遂行は十分な収量のタンパク質を単離・精製することが前提となるが、そのための方策として研究初年度にKaiCホモログ発現のスクリーニング系を確立し、その実効性を示すことができた点は大きい(Mukaiyama et al., IJOBM 2019)。またこれまでに取得したKaiCホモログには、少ないサンプル数ながらもKaiC機能の普遍性・多様性を示唆する結果が含まれており、これまでの研究の進め方が妥当であることを支持している。
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今後の研究の推進方策 |
時計タンパク質KaiCのホモログはシアノバクテリアのみならず、一部のバクテリアやアーキアにも散見される。それらは進化系統樹上においてSe-KaiCと非常に離れた場所に位置することから、進化の初期過程に分岐したものと推測される。これらのKaiCホモログが果たして生物時計としての機能を保持しうるのかを検証する。データベースを元に候補となるホモログを数種類選定し、大腸菌での発現、精製および機能解析を行う。また、すでに単離、機能解析に着手したホモログについては、変異体解析や構造解析を行い、機能発現に重要な因子、部位の特定を行う。
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