研究課題/領域番号 |
18K06172
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
重松 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 研究員 (00415928)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イオンチャネル / 電位依存性 / 可視化 |
研究実績の概要 |
本研究では、膜電位依存的なイオンチャネルの機能構造を明らかにするために、脂質小胞に再構成したイオンチャネルの構造クライオ電子顕微鏡単粒子解析により取得し、脂質小胞に異なる膜電位を印加した際のチャネルの電位依存的な構造変化を解像することを目的にしている。これまでに米国Yale大学のFred Sigworth教授と共に方法論開発を進めており、電位センサーである膜貫通ヘリックスの相対配置の解像に成功している(膜電位 0 mV相当)。初年度にあたる平成30年度において、大量のデータを用いて分解能を5オングストローム程度に引き上げることを計画したが、支持膜として用いているアモルファス炭素膜からのノイズのために分解能の向上が得られなかった。昨年度は、代替としてグラフェン支持膜の利用を試みた。市販のものと、自作のものと比較しながら条件検討を行なったが、自作の物については、大きなエリアを転写し、利用することが困難であることがわかり、大量のデータ取得を計画していることから市販品の利用に切り替えた。昨年度から所属先にクライオ専用の200kV TEMが導入され、自動試料装填装置、直接電子検出装置といったオプションを利用して、自ら大量のデータを取得する環境を得た。グラフェンの評価、実際に脂質小胞を使った実験を重ね、グラフェンそのものでは、脂質小胞との相性に問題があることがわかった。現在、表面の科学修飾による効果を検討している。また、その一方で、アモルファス炭素支持膜の作製方法を再検討し、薄くて丈夫な膜を作製することに成功した。現在、この支持膜を用いて大量のデータを取得しており、一部のデータを用いた解析では、大幅なノイズの低減が見られており、こちらについても検討を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、共同研究先のYale大学と同様、国内においてもクライオ電顕による構造解析の需要が高まっているため、実験、評価そしてフィードバックという体制が整わなかったが、昨年度から所属先に導入された装置を用いることで、手法の抱える問題点がさらに明らかになり、また、それを克服することが可能である技術について検討を加えることが可能となった。また、グラフェンに関しては所属先でX線結晶構造解析用に、薄膜作製技術が導入されており、電顕支持膜としての検討を加えることができた。まだ、技術的に克服すべき問題点があるが、解決することで、本研究のみならず様々な試料に適用可能な基礎的な技術に昇華できると考え、こちらについても検討を加えている。また、元々利用していたアモルファス炭素膜についても、従来から使われている技術を手元で再現することに成功し、よりノイズの少ない、丈夫な支持膜として利用できる環境が整った。また、昨年度末に、追加でより高速な検出器を導入できた。これを用いることで、今年度中に、十分な量のデータを揃え、電位依存性を支える構造基盤を可視化する。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンについては、ドライプロセスでの表面修飾を諦め、ウェットプロセスを進める。ポリエチレングリコールの末端に種々の官能基を導入した試薬を用いて、脂質小胞との親和性を評価する。アモルファス炭素膜については、ノイズの低減が見られたことから、データセットを増やして分解能の向上と電位印加状態(-100 mV程度)での構造解析を達成し、電位依存性の構造基盤を可視化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にクライオ初年度にクライオ電顕のマシンタイムをあまり確保できず、グリッドなど高額な消耗品の購入が予定より少なかったことがあり、繰越分を引き継いでいる。本年は、準備が整ってきていることもあり、所属機関の装置を用いることで、大規模なデータ取得が可能になるため、消耗品購入に充てる予定でいる。
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