クロマチンの基本単位であるヌクレオソームは、ヒストンタンパク質8量体の周りに約150塩基対のDNAが2回巻き付いた構造体であり、遺伝子転写等の生命現象に関わる。転写のプロセスでは、クロマチンの凝集状態が緩和しオクタソームに巻き付いたDNAの解離やテトラソームのキラル転移などが起こることで、DNAが外部にむき出しになり、転写関連タンパク質などが遺伝情報に直接的にアクセスできるようになる。 本年度は、ヌクレオソーム構造がDNAのスーパーコイル変化およびねじれストレス作用のもとでどのように変化するのかを、研究代表者が主体となって開発した分子動力学シミュレーションプログラムSCUBAを用いて解析した。DNAに左巻きスーパーコイルから右巻きスーパーコイル状態へ向かう力をかけながらヌクレオソームにキラル転移を誘導したシミュレーションでは、ヒストンテールがキラル転移に果たす役割を理解するために、通常のヌクレオソームとヒストンテールのないヌクレオソームについてキラル転移の自由エネルギーを見積もった。また、DNAにねじれの力をかけるシミュレーションでは、ねじれの力がヌクレオソーム構造を大きく変化させることがわかった。ヒストンコアに巻き付いたDNAをヒストンコアから解離する自由エネルギー解析を実施することで、左巻きのねじれの力を加えるとDNAはヒストンから離れやすくなり、逆に右巻きのねじれの力を加えるとDNAはヒストンから離れにくくなることがわかった。その原因は、DNA二重らせんの幾何学的特性とDNA固有の物性的特性(柔らかさ、曲がりやすさ)によることがわかった。 以上のように、ヌクレオソームに作用する外的な力の向きにより、ヌクレオソームの構造が大きく変化することがわかった。このような外的な力の向きが、DNAにおける遺伝子発現の制御に関与している可能性があると考えられる。
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