研究実績の概要 |
一部の磁覚保有種は、鉄硫黄クラスター輸送蛋白質の一種ISCA1の自己会合体と青色光受容蛋白質クリプトクロム(CRY)とによって構成される複合体を網膜細胞に有する。同複合体は、地磁気程度の磁場にも応答・配向するという極めて稀な性質を有するため、磁覚の原因物質の一つである可能性がある。しかし、ISCA1の構造・物性は殆ど不明であり、且つ、CRY/ISCA1複合体の磁場配向機構も不明であった。申請者は2019年度までに、カワラバト由来ISCA1 が二種類の単量体構造(球状のType-Aと棒状のType-B)を形成すること、及び、Type-Aは4量体以上の柱状会合体を形成することを発見した。2020年度は、ゲルろ過X線小角散乱法と紫外可視吸収分光法を組合せ、①Type-A柱状会合体界面に鉄硫黄クラスターが結合すること、②Type-Bは鉄硫黄クラスターを結合しないこと、③Type-Bの会合は2量体までに止まることなどを明らかにした。これらの結果から、Type-A柱状会合体の長軸に沿って規則的に配置した鉄原子が帯磁率や磁気異方性を向上し、CRY/ISCA1複合体の磁場応答性に寄与していると推察された。更に、試料磁場印加装置[M. Hirai, et al., J. Appl. Crystallogr. 36 (2003) 520]を放射光施設・Photon Factoryに設置するための改良を行い、同装置を用いてISCA1の構造・物性への磁場効果を明らかにした。結果、1T程度の磁場印加によってType-AのISCA1の並進拡散が影響を受け、会合体が成長する現象を発見した。本研究により、ISCA1は外部磁場に依存して構造・機能を変化させることが明らかになった。また、Type-A柱状会合体単独では磁場配向性を示さず、CRYの結合がCRY/ISCA1複合体の磁場配向性を増強する未知の機構が存在することも明らかになった。
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