研究課題
脊椎動物のHox遺伝子群の発見から四半世紀以上経った現在においても、その機能については不明な点が多く残されている。その大きな理由のひとつとして、脊椎動物の進化の初期で生じた2回の全ゲノム重複により、脊椎動物では4つ以上のHoxクラスターが存在し、それぞれが冗長性をもって機能していることが、ノックアウトマウスを用いた解析から示されている。真骨魚類ではHoxクラスターがさらに倍加し、ゼブラフィッシュでは7つのクラスター構造を有していることが知られる。本研究では、脊椎動物の形つくりの基本体制を備えた最も古い魚類に着目し、胚発生が早く、遺伝学的解析に優れたゼブラフィッシュの利点を生かし、それぞれのHox遺伝子クラスターをCRISPR-Cas9システムにより破壊した欠損体を作製し、脊椎動物におけるHox遺伝子クラスターの機能をマウスでの知見と比較し、hoxクラスターのゲノム機能進化を明らかにすることを目的とした。2019年度は、引き続き変異体の作製に取り組み、ゼブラフィッシュにある7つのhoxクラスター欠失した変異体を全て単離することに成功し、それぞれの変異体について詳細な表現形解析を行った。その結果、ゼブラフィッシュのhoxクラスターはマウスの対応するHoxクラスターと共通する機能が一部見られるものの、クラスター単位での機能が異なっていることが示唆された。以上のことから、Hoxクラスターは脊椎動物の初期に4つに倍加した後の進化の過程で、異なる機能分担化が生じたことが示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
2019年度末までに、ゼブラフィッシュの7つのhoxクラスター変異体の単離に成功し、それぞれの変異体について詳細な表現形解析がほぼ終了した。作製した変異体のうち5つのホモ変異体が成魚まで生存することが分かり、共同研究先と連携し、マイクロCT解析を導入し、生存したそれぞれの変異体の成魚の全身骨格および軟組織解析を行った。その結果、ゼブラフィッシュのhoxクラスターはマウスと一部共通する機能もみられるが、マウスとは異なる機能分担化が生じたことが示唆された。近々、これらの結果をまとめ、論文投稿をする予定である。また、単離した変異体について交配により変異を重ね、二重変異体、三重変異体を作製した。その結果、これまでにマウスHox変異体では報告されていない新規の興味深い表現形がいくつも見出されている。我々が見出した結果は、脊椎動物のHox遺伝子群の機能進化について、これまで考えられていたモデルとは異なる新たな概念を提示する可能性があると考えている。これらの結果は、申請時の想定を大きく超えるものであり、コロナウイルス対策の影響で研究が一時中断している状況であるが、本研究計画は当初の計画以上に進捗していると言える。
まず、ゼブラフィッシュにある7つのhoxクラスター変異体の作製と表現形解析の結果をまとめ、論文として世に出すことを今年度の目標とする。それとともに、これまでの解析で見出された興味深い表現形について、クラスター内のどのhox遺伝子が必要であるのか、候補となるhox遺伝子にCRISPR-Cas9法により変異を導入し、表現形を再現するhox遺伝子群の組み合わせを同定する。
次年度使用額が生じた主な理由として、2020年2月に参加を予定していた国際学会がコロナウイルスの影響のため、中止になった。その分の旅費、参加費等が余剰金となり、次年度へ繰り越した。今年度、通常通りに開催されるのであれば他の国際学会に参加することを計画している。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) 備考 (2件)
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http://seitai.saitama-u.ac.jp/
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