研究課題
Hox遺伝子群の発見から四半世紀以上経った現在においても、その機能と制御機構については不明な点が多く残されている。その大きな理由として、Hox遺伝子群のゲノム上の構造と、それに伴う相補性の高さが挙げられる。ショウジョウバエでは、単一の染色体上に一列に並んだホメオティック遺伝子群はそれぞれ固有の機能を持ち、遺伝子と機能の相関が明確である。一方、脊椎動物においては、脊椎動物の進化の初期過程で生じた2回の全ゲノム重複により、ヒトやマウスでは4つのHoxクラスターが存在している。また、真骨魚類では4つのHoxクラスターがさらに倍加し8つのクラスターを生じた後、ゼブラフィッシュではhoxdbクラスターが消失して計7つのクラスター構造を有している。さらに、単一のHoxクラスター内には10個程度のHox遺伝子が並び、個々のHox遺伝子はcis及びtransに相補しあい、その結果、遺伝子と機能の関係は非常に複雑である。このように高度に相補性を持つ脊椎動物のHoxクラスターの機能と制御の全容を解明するには、ゲノムレベルでHox遺伝子クラスターを捉えた解析が必須である。本研究では、胚発生が早く、遺伝学的解析に優れたゼブラフィッシュの利点を生かし、それぞれのHox遺伝子クラスターを破壊した欠損体をCRISPR-Cas9システムを用いて作製し、脊椎動物におけるHox遺伝子クラスターの役割を解明する。さらに、Hox遺伝子クラスターの多重変異体を作製し、その表現形解析を行うとともに各クラスターのゲノム構造を解析することにより、Hox遺伝子クラスター間の相互作用の意義を解明する。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでにCRISPR-Cas9法を用いて、ゼブラフィッシュに存在する7つのhoxクラスターをそれぞれ欠失した変異体の作製に成功した。単離した7つの変異体全てについて、胚発生期における表現型を解析し、成魚まで生存した5つの変異体については、共同研究によりX線CTスキャンを用いて、全身骨格解析および軟組織解析を行った。得られた各hoxクラスター欠失変異体の表現型を、マウスの相同なHoxクラスターを欠失したノックアウトマウスで報告された知見と比較すると、機能が保存されている点や異なる点が見出され、Hoxクラスターは、脊椎動物の進化の過程で異なる機能進化を遂げたことが示唆された。本成果をまとめた論文はDevelopment誌に受理され、「論文として公表する」という昨年度の目標を達成することができた。また並行して、今年度は、クラスター変異を重ね合わせたhoxクラスター多重欠失変異体を作製し、表現型解析を進めた。その結果、マウスでは見出されていない脊椎動物Hox遺伝子の新しい機能を示唆する様々な表現型を見出した。特に興味深い表現型については、原因となるhox遺伝子を同定するため、クラスター内の各hox遺伝子に変異を導入した変異体を作製した。現在までに、ゼブラフィッシュに存在する48個のhox遺伝子のうち、半数以上のhox遺伝子について変異体を単離し、さらに複数のhox遺伝子に変異を同時に有する変異体も作製した。その結果、hoxクラスター欠失変異体で見出された表現型の幾つかについては、クラスター内のhox遺伝子に変異体で表現型を再現することを確認でき、原因となるhox遺伝子を同定することに成功した。以上のことから、これまでに得られた成果は、当初の想定を上回るもので、当初の計画以上に進展していると考えている。
最終年度にあたる今年度は、hoxクラスター多重変異体における表現型解析とその原因遺伝子の同定を行うことを主な目標とする。そのため、様々な組合せのhoxクラスター多重変異体についてマーカー遺伝子を用いてin situ hybridizationを行い、詳細な解析を進める。さらに、これまでに見出した興味深い表現型については、原因遺伝子となるhox遺伝子群を同定し、その機能の詳細をさらに明らかにしていく。特に、既に解析が進んでいるものに関しては論文発表できるレベルまでデータを積み上げることを目標として、今年度の研究を推進していく。
昨年度、次年度繰越請求を行ったが、試薬や消耗品などキャンペーンを利用し購入したため、予定よりも支出が少なかった。また、出席する学会が、中止やオンライン開催に変更になったため、旅費の支出が大幅に抑えられたことも大きい。繰越金は、今年度の経費と合算して、hoxクラスター変異体解析のために必要な試薬等の購入費として使用する予定である。
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Developmental Biology
巻: 472 ページ: 1-17
10.1016/j.ydbio.2020.12.016
Development
巻: 148 ページ: dev198325
http://seitai.saitama-u.ac.jp/index.html
http://devbiol.seitai.saitama-u.ac.jp/