トランスポゾンはゲノム上を転移する可動性の因子である。これらの転移は短期的には疾患にもつながる遺伝子破壊を引き起こすが、長期的に見れば遺伝子発現調節の最適化や宿主の生存に有利となるゲノム構造変化を生み出し、進化の原動力となり得る。ヒトゲノムの17%を占めるLong INterspersed Element-1 (L1)は、ヒトで唯一自律的に転移することができるトランスポゾンだが、未だそのゲノムへの侵入機構はよく分かっていない。 昨年度は、DNA修復に関わる宿主タンパク質であるPARP1とPARP2が関わる転移の分子機構を詳細に解析した。その結果、PARP2によって作り出される翻訳後修飾の一つであるpoly(ADP-ribose)が、一本鎖DNA結合タンパク質であるRPAと相互作用すること、さらにRPAがL1の転移中間体を保護することを見出し、国際誌に報告した。しかし、未だ明らかとなっていないPARP1の役割について解析したところ、L1の逆転写酵素であるORF2タンパク質がPARP1によってpoly(ADP-ribosyl)ation修飾を受けることが新たに分かった。現在、poly(ADP-ribosyl)ationされたORF2と相互作用する因子の同定、またORF2の酵素活性の変化を解析中である。また、他のL1制御因子候補であるユビキチンリガーゼの標的基質分子の探索を実施し、その候補基質が得られた。これらの候補基質の特定とL1転移における役割を解析中である。この他のL1制御因子であるミトコンドリアDNA結合タンパク質についても、予想外に多くの核内タンパク質と相互作用することが分かってきた。それらの中には上記のRPAの他に、転写、DNA修復に関わる因子も含まれており、ミトコンドリアタンパク質の知られざる核内機能の解明へとつながる知見が得られた。
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