研究課題
家族性の知的障害である脆弱X症候群(以下、FXS:Fragile X syndrome)はトリプレットリピート病であり、高い頻度で自閉症症状を併発することが多いため、その病態・病因の解明は、本疾患のみならず神経変性疾患の病態解明ならびに治療戦略の開発のためにも重要な位置付けにある。FXSの責任遺伝子であるFMR1(FMRP translational regulator 1)の5’非翻訳(UTR)領域に存在するCGGリピートは、正常、保因者、患者と長さが異なり、保因者の持つ100リピート程度を中心とした中程度のCGGリピートが母性伝播すると、一気に200リピート以上にまで伸長する。そのアレルを受け取った子孫(特に男児)では、FMR1プロモーターおよびCGGリピート周辺領域の高度のメチル化が誘導され、FMR1遺伝子の発現を抑制することで発症する。本疾患の分子メカニズムを解明するためには、FXS発症の根本的病因であるこれらの一連のクロマチン動態を再現し解析する系が必要であり、本研究では、その解決策として染色体工学を適用し、CGGリピート配列をコアとするFXS脆弱部位を機能的ヒト染色体領域として人工染色体上にクローニングし、FXS発症のエピジェネティックな分子基盤を明らかにするための真の細胞、そして動物モデルを構築することを目指している。今年度は、初年度に引き続き、FXS脆弱部位を保持する人工染色体の構築のため、FXS保因者由来のヒトX染色体を保持するCHO細胞内において、FMR1遺伝子上流領域にCre/loxPシステムのためのloxP配列をCRISPR/Cas9系を用いて挿入する過程を進めてきた。現在、loxP配列が挿入されたクローンについて、人工染色体への搭載を進めている。
3: やや遅れている
特にげっ歯類細胞内に存在するヒト染色体に対するCRISPR/Cas9系を用いた染色体改変の効率は高くなく、loxP配列の挿入に時間がかかったため。初年度に達成できなかったポイントはクリアできたが、人工染色体への搭載という当初計画からは遅れている。
今後の研究も引き続き、本研究の核となるべきFXS脆弱部位の構築を第一優先に進める。現在の進捗状況を鑑みると、本科研費内では、FXS脆弱部位を搭載した人工染色体を完成させ、in vitroモデルを構築するところを一つの目標とする。さらに、FXSに関連したCGGリピート制御に関わる因子やパスウェイを絞っていき、モデル系が完成した際に解析・操作すべき因子の候補を見出しておくためにも、ヒト細胞(セルバンクより入手)を用いた網羅的な解析を進めていく。
今年度は進捗を鑑みて筆頭著者としての学会発表は見送ったため、例年に比して旅費が減少した。また現在作成中の細胞資材についての論文作成が完了しなかったので、その投稿に掛かる想定経費を次年度に繰り越すことにした。さらに、研究が進捗すればin vitroモデル系として幹細胞を扱う実験を予定しており、今現在の通常の研究よりも費用が必要となる。これらの理由と使用の見込みから、次年度使用額が生じた。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件)
BMC Cancer
巻: 20 ページ: 175, 183
10.1186/s12885-020-6629-6
Biotechnology letters
巻: 42 ページ: 697, 705
10.1007/s10529-020-02826-z
Viral Immunology
巻: 32 ページ: 362, 369
doi: 10.1089/vim.2019.0086.
Scientific Reports
巻: 9 ページ: 13083
10.1038/s41598-019-49581-4
Yonago Acta Medica
巻: 62 ページ: 240, 243
doi: 10.33160/yam.2019.06.010.