リボソーム合成工場である核小体には、大量のリボソームRNA(rRNA)を供給するためにrRNA遺伝子(rDNA)が局在する。転写因子UBFがrDNA領域全体に結合することでユニークなクロマチン構造を形成することでRNAポリメラーゼIによる連続かつ高速な転写が可能となる。これまでに転写因子UBFが神経疾患の原因変異として同定されており、変異型UBFがrRNAの転写を亢進させハイパーアクティブ状態へと引き上げることで原因であると考えられてきた。本研究では新たに神経疾患の患者から同定されたRNAポリメラーゼIのサブユニットの二種類のヘテロ接合型変異についての解析を横浜市立大学松本直通先生と共同で行った。この遺伝子をクローニングし、部位特異的変異を挿入後、培養細胞で発現させたところ、変異型のタンパク質の発現は確認できなかった。このことから変異型タンパク質は細胞内において不安定であり、両アリルともに機能喪失性(Loss Of Function)変異であることが明らかとなった。また、マウスES細胞においてゲノム編集技術を用いて片側アリルを欠損させることで、ヘテロ接合性変異型の細胞を作製し、神経前駆細胞に分化後リボソーム合成に与える影響について調べた。POLR1B+/- 細胞株ではコントロールの親株と比べてrRNAの転写レベルが60%ほどに低下していることがわかった。したがって、新たに解析した神経疾患の原因変異はrRNAの転写をハイパーアクティブ状態にするものではなく、むしろ転写の活性を低下させるもので、その結果神経疾患を引き起こすことが示唆される。また同じRNAポリメラーゼIの変異で神経疾患ではなく四肢顔面骨形成不全を引き起こす変異を解析したところ、液-液相分離が関与していることを計らずして見出した。
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