研究課題
正常線維芽細胞は一度遊走方向が決まると長時間にわたってその方向を維持できる。Contact inhibition of locomotion(CIL)により遊走が停止していると考えられているコンフルエント状態においてもすれ違いながら動き続けることができる。本研究は、正常線維芽細胞のこの強固な方向持続的遊走を可能にする分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。今年度、不死化によって細胞骨格画分の割合が極端に減少することがわかったLIM domain only protein 7(LMO7)の正常線維芽細胞の遊走挙動における役割を解析した。ヒト胎児肺由来の正常線維芽細胞TIG-1は、基質としてフィブロネクチンをコーティングした場合、LMO7をsiRNAによってノックダウンしても遊走することができた。ところが、poly-L-リジンをコーティングした場合は、LMO7のノックダウンにより遊走能が失われることがわかった。これらの結果から、正常線維芽細胞の遊走には、足場としてフィブロネクチンが必要であり、LMO7はフィブロネクチンの発現、または細胞外への分泌に関与していることが示唆された。今年度は、さらに、細胞どうしが接触する部位に注目し、正常線維芽細胞WI-38とその不死化株のWI-38 VA13の細胞間接着構造を比較解析した。WI-38 VA13の細胞集団の細胞が接触している部位において、ビンキュリンが集積したジッパー状の細胞間接着構造がランダムに形成されるのに対し、正常線維芽細胞のコンフルエント状態では、ジッパー状の細胞間接着構造は細胞の前方と後方のみに形成され、整列した細胞が主に触れ合う細胞の側面間では形成されないことがわかった。この極性を維持した細胞間接着構造の形成が、正常線維芽細胞のコンフルエント状態におけるすれ違い遊走に関与している可能性が示唆された。
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Biomechanics and Modeling in Mechanobiology
巻: 20 ページ: 155-166
10.1007/s10237-020-01375-8