研究課題/領域番号 |
18K06203
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石川 香 筑波大学, 生命環境系, 助教 (40734827)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / MFN2 / 神経変性 / 行動異常 / 認知機能 / 運動障害 / 神経変性疾患モデル |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアの融合因子MFN2のドミナント・ネガティブ型変異体を任意のタイミングでニューロン特異的に発現させることが可能なマウスを新たに樹立し、その病態解析を行った。変異体を出生時から発現させると、急性かつ重篤な神経変性が誘導されて生後10週齢までに半数以上のマウスが死亡した。一方、変異体を成体(8週齢)になってから発現させた場合、生後200日を過ぎるまで目立った表現型は見られなかったが、その後進行性の神経変性が誘導され、行動異常や認知機能の低下、運動障害など、ヒトの神経変性疾患ともよく類似した病態が現れた。生後1年を過ぎるまで、死亡率に変化はなく、その点も神経変性疾患とよく類似していると思われた。 本研究成果は、ミトコンドリアの融合が神経機能の維持において生涯を通じて重要な役割を担っていることを示している。同時に、同一遺伝子の同一変異体が発現時期を変えることによって重症度が大きく異なる病態を誘導したことから、神経変性疾患のモデル樹立を考える上で、病因因子のOnsetのタイミングが重要であることを示唆している。現在広く用いられている神経変性疾患モデルの多くは、病因因子となる遺伝子を発生時期から導入もしくはノックアウトされており、成長期の神経細胞に対するダメージと成体期以降の神経細胞に対するダメージの切り分けができておらず、ヒトの神経変性疾患の病態進行を再現できていないため、表現型にも乖離が大きい。よいモデルがないことが、神経変性疾患領域の薬剤開発の遅延にもつながっている。本成果は、こうした状況を打開するための重要な示唆を含んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
樹立したモデルの病態評価がスムーズに進行し、業績として論文を1本公表できた。また、その論文が掲載された雑誌において関連する電子顕微鏡写真が表紙を飾ることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られている評価に加え、成体になってから変異型MFN2を一時的に発現させた後に再び発現を止めるという系を用いた解析を予定している。これにより、変異型MFN2による神経細胞へのダメージが可逆的なのか不可逆的なのかを検証し、神経変性におけるミトコンドリア融合の意義を考察する予定である。
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