研究課題
ミトコンドリアの融合を担う因子、MFN2のドミナント・ネガティブ型突然変異体(hMFN2(D210V))を、神経細胞特異的に任意のタイミングで誘導発現させることが可能なモデルマウスを樹立し、その病態解析を行った。変異型MFN2を出生時から発現させると、急性の神経変性が引き起こされ、10週齢になるまでに約半数のマウスが死亡するという重篤な病態が観察された。一方、同じ変異型MFN2を、神経機能が一通り成熟する8週齢以降に継続的に発現させた場合には、発現開始後しばらく目立った表現型は現れなかったが、緩徐に進行する神経変性が誘導され、生後300日を過ぎるころには体重やミトコンドリア呼吸機能、血糖値など様々な項目で対照群と有意差が認められた。神経機能の低下が示唆されたため、生後300日以降に網羅的な行動解析を実施した結果、変異型発現群では顕著な認知機能の低下や行動異常が認められた。生存率に大きな影響を与えることなく、緩徐に神経変性が進行し、認知や行動機能に異常をきたす表現型は、ヒトの神経変性疾患ともよく類似していた。最後に、変異型MFN2を8週齢から120日間に限定して発現させた場合(一過性発現群)の病態を、8週齢以降継続的に発現させた群(継続発現群)と比較した。その結果、一過性発現群では継続発現群で認められた病態の大部分の発現が抑制され、特に認知や行動はほぼ完全に正常化されていた。これらの結果は、MFN2が神経細胞が正常に機能する上で生涯に渡って不可欠であることを示すと同時に、同一変異体が発現させる時期や期間によって全く異なる表現型に結びつくことを意味している。ヒト神経変性疾患の進行を模倣する病態モデルマウスは例が少なく、神経変性疾患の病態理解を困難にしているが、ヒトの病態を模倣するためには、病因のOnsetのタイミングも重要な要素であることを示している。
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