転写因子p53による代謝制御が、がんを抑制する上で重要な役割を担っていることが明らかにされている。このp53による代謝制御を介したがん抑制メカニズムでは、がん治療上の標的分子の1つである5’-AMP-activated protein kinase (AMPK)の時空間的な活性制御を適切にコントロールする必要がある。しかし、p53がどういったストレス情報に対して、約20あるp53標的代謝関連遺伝子の内、どの代謝関連遺伝子の発現を同時に調節するのか、そして様々な代謝関連遺伝子の協奏的発現調節によって創り出される「細胞内の栄養環境の変化」という情報が、AMPKの活性レベルを時空間的にどのように変化させていくのかは十分に理解されていない。 今回我々はp53-AMPK axisにおけるがん抑制的な作用が、細胞内構造のリモデリングと連携しているという仮説を見出した。例えば多くのがん細胞ではミトコンドリアの断片化が観察されるが、AMPKもまた、ミトコンドリアの断片化に関与していることが報告されている。この多くのがん細胞で観察される「ミトコンドリアの断片化」は持続的な表現型であるのに対し、AMPKによる「ミトコンドリアの断片化」は短期的な表現型である。つまり、「ミトコンドリアの断片化」と一言でいっても、それがどれぐらいの期間続いた断片化なのかによって意味合いが異なるのではないかと考えた。しかしこうしたアイディアを検討するためには、任意のタイミングかつ秒から分のオーダーでミトコンドリアの形態を変化させる技術が必要だが、そうした技術が開発されていなかった。そこで本研究を推進するために、ミトコンドリアの形態変化を任意のタイミングで誘導することができる技術の開発に取り掛かり、期間内にその開発に成功した。
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