研究課題
脳神経系が機能的な神経回路を正しく構築するためには、莫大な数の神経細胞それぞれが自己と非自己を識別し、自己の樹状突起間でのみ反発作用を引き起こす、自己交叉忌避と呼ばれる原理が必須である。本研究は自己交叉忌避の分子機構を解明することを目的とする。自己交叉忌避には細胞認識分子Dscamが必要であり、Dscamによる自己の認識機構は詳細に明らかにされている。一方でDscamが自己を認識した後に自己の樹状突起間で反発作用を生み出す分子機構は全く明らかにされていない。本年度はスクリーニングで得られたDscamと生化学的、遺伝学的に相互作用する新規分子が、Dscam細胞内ドメインのどの部分に結合するのかを調べた。すると、アミノ酸配列から予想された結合モチーフに加えて、未だ報告されていない未知の結合モチーフの存在が予想外に示唆された。現在、部分コンストラクトとアラニン置換変異体を作成することによって、その新規モチーフの同定を試みている。また、Dscamのモチーフに変異を導入したコンストラクトの作成も完成しており(新規モチーフに関しては同定できしだい作成)、Dscam変異体系統の作成を進めている。また、マウスDSCAMの新規結合タンパク質としてIPO5を同定し、DSCAMの細胞内ドメインが切断されるとIPO5によって核移行し、神経突起の伸長やシナプス形成を転写レベルで制御するという、全く新しい知見が得られた。その成果は本年度、論文として発表することができた。今後は、自己交叉忌避におけるDscamの切断や転写制御の役割についても検討していく。
2: おおむね順調に進展している
生化学的、遺伝学的スクリーニングによって、Dscamの下流で働くことが予想される複数の分子を同定することができた。また、それらのDscamにおける結合モチーフの変異体作成を進めることができた。一部の成果については、論文を発表することができた。
今後は、Dscamとその下流候補分子との遺伝学的相互作用を検証していく。また、Dscamにおける結合モチーフ変異体の表現型を観察し、同定した候補分子の自己交叉忌避における役割を検証していく。
実体顕微鏡が予定よりも安価で購入できたため。差額分については、本年度の成果として未知のDscamシグナルモチーフの存在が明らかになったので、その新規モチーフの同定と機能解析に必要な生化学的、構造生物学的、遺伝学的実験に必要な経費として、翌年度の予算と合わせて使用する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (1件)
EMBO J
巻: 38 ページ: e99669
10.15252/embj.201899669