研究課題/領域番号 |
18K06210
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
鳥居 暁 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, プロジェクト講師 (10444001)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | オートファジー / Ulk1 / リン酸化 / Atg5 |
研究実績の概要 |
オートファジーは、隔離膜と呼ばれる膜構造で細胞質成分を覆い、オートファゴソームと呼ばれる二重膜に取り囲んだ後に、オートリソソーム内でオルガネラやタンパク質を分解する機構である。酵母を用いた解析によって多くのオートファジー関連タンパク質(Atg)が同定され、オートファジー経路はAtgタンパク質の制御する機構が重要であることが見出されてきた。近年に私の所属研究室において、飢餓で誘導される小胞体由来のAtg5やAtg8/LC3に依存する従来型オートファジーとは全く異なるゴルジ体を起源とした、異なる分子、メカニズムで制御される新規オートファジーが見出された。新規オートファジーの実行分子の多くは、従来型オートファジーと異なっているが、Ulk1に関しては共通に利用されている。しかし、どのように2つのオートファジーの分岐が決定されるかは未知のままであった。また新規オートファジーのマーカー分子の開発は道半ばでありその生理的、病理的役割に関しては充分明らかにされていなかった。本年度、1. 新規オートファジーを誘導した際のUlk1のリン酸化をMS解析し、新規オートファジーに特異的なリン酸化を複数同定した。2. さらにそのリン酸化されるセリン部位をアラニン置換した変異体を恒常的に発現したAtg5/Ulk1ノックアウト細胞株を作製し、オートリソソームの肥大化を指標にして新規オートファジーへの影響を調べた。その結果、ただ1つのセリンのリン酸化が新規オートファジー誘導に必須であることを見出した。3. 同定したリン酸化セリンを認識する抗リン酸化抗体を作製した。この抗体は細胞染色及び免疫沈降実験において十分な結果を得ることができ、細胞染色解析の結果からリン酸化Ulk1はゴルジ体に特異的に局在することがわかった。この抗体染色は新規オートファジーのマーカーとして使用できる可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の目的であった新規オートファジーに特異的なリン酸化を複数同定するとともに、その中の一つが新規オートファジーに必須であることが見出された。この結果によって、新規オートファジーにおけるUlk1の制御機構の解明が大きく進展したと考えている。さらにこのリン酸化に特異的な抗リン酸化抗体を作製し、複数の実験手法に適していることがわかった。今後の野生型細胞、マウス組織の実験においても有効につかえる道筋ができたと考えており、進歩が順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1. 新規オートファジーに特異的なUlk1リン酸化部位の同定に関して。研究実施計画のこの項目に関しては平成30年度に達成できた。2. リン酸化と新規オートファジーの関連:細胞生物学的解析に関して。今後は新規オートファジーへの影響に関してさらに詳細に解析する。また周辺配列情報からUlk1の上流の酵素を特定できる場合があるので、データベースを用い関連論文を参考にして特定する。予測が立った場合に、上流酵素とUlk1との直接結合やキナーゼアッセイによるin vitroの酵素活性の解析を行う。さらにはその酵素の阻害剤やKO MEFを用いることで新規オートファジーとの関連性を示す。3. 抗リン酸化抗体の使用とマーカーとしての有用性。同定したリン酸化セリンを認識する抗リン酸化抗体を用いて、リン酸化のタイミング(DNA損傷誘導時等)、細胞内局在に関してさらに詳細に解析し、新規オートファジーマーカーとして使用できるか結論を出す。4. 新規オートファジーの生理的意義、病理学的影響の解明。今までの新規オートファジーの解析には、Atg5ノックアウトの状態にすることで従来型オートファジーを排除し、その際でも起こるオートファジーを解析するのが通例だった。しかし上記の抗リン酸化抗体を用いることで野生型のマウス組織でも新規オートファジーの誘導を可視化することが可能だと考えられる。抗リン酸化抗体で各種組織での免疫組織化学を行い、新規オートファジーの実行部位を探る。さらにマウスにDNA損傷等のストレスを加えた上で同様の解析を行い、どのストレスに応じてどの細胞、組織で新規オートファジーが誘導されるかを明らかにする。
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